研究課題/領域番号 |
23590524
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
片山 誠一 岡山理科大学, 理学部, 准教授 (70169473)
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研究分担者 |
櫃本 泰雄 岡山理科大学, 理学部, 教授 (90136333)
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キーワード | ウェルシュ菌 / ガス壊疽 / フィブロネクチン (Fn) / Fn結合タンパク質 |
研究概要 |
ウェルシュ菌(Clostrodium perfringens) は偏性嫌気性有芽胞グラム陽性桿菌で、ヒトにガス壊疽と食中毒を引き起こす病原細菌である。この細菌のゲノム上には、2つのフィブロネクチン(Fn)結合タンパク質(fibronectin-binding perotein, Fbp)をコードする遺伝子(fbpA, fbpB)が存在する。この2つのFbpは、FnのTypeIIIモジュールの1のC末端領域(III1-C)と結合をする全く新しいフィブロネクチン結合タンパク質である。 平成24年度はFbpA(220 aa, 25 kDa)分子内のFn III1-C領域が結合するドメインの同定を試みた。さまざまなtruncated recombinant FbpA (rFbpA) と30 aaの合成ペプチドを11個を作製し、Fn結合能とFn III1-C結合能を調べたところ、121-150 aaのペプチドに強い結合活性が認められた。このことから、C末端のこの領域が結合ドメインである可能性が高いと判断した。この領域は、他のFbpのFn結合ドメインとアミノ酸配列が異なっていることから、新しいモチーフの発見につながるものと考えている。 次に、Fn III1-C領域を認識するモノクローナル抗体の作製を試みたところ、YMと命名した抗rFn III1-C モノクローナル抗体(IgM)を作製することに成功した。面白いことにFbpA結合しうるIII1-C領域を表出したFn分子とのみ、このモノクローナル抗体が反応した。III1-C領域を表出したFn分子はマトリックスFnの形成に重要であることが知られている。FbpAの機能として、III1-C領域を表出したFn分子に結合してマトリックス形成を阻害することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最初の研究課題であった「FbpAとFbpBのFn III1-C結合ドメインの同定」について、FbpAのFn III1-C結合ドメインはほぼC末端領域にあると決定できた。しかし、FbpBの結合ドメインについては、まだ、N末端領域かどうかは、確実になっていない。結合部位を同定するため30 aaのペプチドを合成したところ、全く結合しなかった。さらに、FbpBについては、解析を進めないとならないと思われる。 FbpAとFbpBの大量合成については、これらの遺伝子をpCold IIと呼ばれる低温発現ベクターにクローニングし、大腸菌で発現誘導して、発現量の増加を試みたが、従来のpETベクターによる発現量と大差なかった。また、調製された組換えタンパク質は、低温(4℃)で保存すると凝集を起こし、結晶構造解析に必要な大量精製標品を残念ながら得ることはできなかった。よって、両タンパク質の立体構造解析を進めるには全くいたっていない。 ウェルシュ菌の病原性へのFbpA, FbpBの関与があるかないか示すために、両遺伝子のノックアウト変異株を用いて、マウスにガス壊疽を惹起するかどうか調べる動物実験であるが、この研究を進めるための施設等に心配な点があり、まだ進めていない。
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今後の研究の推進方策 |
FbpAのFn III1-C結合ドメインがほぼ特定できたので、このタンパク質の立体構造解析を行うことが大変重要と考えている。まず、FbpAをコードする遺伝子の発現量を増加させるため、大腸菌のcodon usageに合わせて人工遺伝子を合成し、この遺伝子を低温発現ベクターpCold IIにクローニングする。その後、低温(15℃)で、誘導をかけ、His-tagを利用して大量精製を試みる。その際、凝集防止剤を溶液中に混入させ、凝集が起こらないようにできるか試みる。 もし、この方法で、FbpAの大量精製ができれば、同様の方法で、FbpBの大量精製も試みたい。 さらに、上記の試みが成功し、10 mg以上の組換えタンパク質が得られれば、英国のAjit K. Basak博士に郵送する。結晶化ができれば、将来、本研究の主要目的である立体構造解析も進められると考えている。 ウェルシュ菌の病原性について、FbpAとFbpBがどれだけ貢献するか調べるための動物実験であるが、共同研究者を探しているところである。その前段階として、FbpAが好中球の遊走を阻害するかどうか、研究を進めていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ウェルシュ菌の新しいタイプのフィブロネクチン結合タンパク質FbpA, FbpBの内、FbpAのFn III1-C結合ドメインについて、そのドメインを明確にするため、新たに合成ペプチドを作製し、Fn III1-C断片を用いたリガンドブロット法を行うつもりである。その費用に科学研究費を用いる予定である。その成果を平成25年10月にオーストラリアで開かれるThe Clostpath 2013 meetingに参加して発表する。その費用に科学研究費の旅費を用いたいと考えている。次にFbpAの結晶構造解析のためのタンパク質を大量精製するのに必要なFrench Pressが現在故障している。この修理費が30万円ほどかかりそうなので、この費用を科学研究費で補いたいと考えている。その他、試薬等、本研究を進めるのに必要なものがあれば、本研究費で購入したいと考えている。
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