研究課題/領域番号 |
23590527
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
黒田 誠 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, センター長 (80317411)
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研究分担者 |
関塚 剛史 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (40462775)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 川崎病 |
研究概要 |
川崎病の原因は未だ不明ではあるが、川崎病の発症は生後6ヵ月~5歳の小児に多く、発症数に季節変動がある2)などの疫学調査結果に加え、細菌由来のスーパー抗原、内毒素、種々の病原体感染症と川崎病の関連を示唆する報告9)~20)他も多く、感染症との関連が疑われている。次世代シークエンサーによる網羅配列解読による病原体候補の検索を行ったところ、川崎病急性期の血清より腸内細菌叢を構成するグラム陰性菌、その他抗酸菌の核酸塩基配列が検出された。これまでに、川崎病患児群の血清からグラム陰性菌由来のLPS (Lipopolysaccharide)が有意に検出され、LPSの病態への関与を示唆する報告や、川崎病遠隔期でBCG由来のHeat Shock Protein 65に対する抗体価の有意な上昇を認め、抗酸菌群の関与を示唆する報告21)があり、網羅配列解読による検索結果はこれらを支持するものである。これまでの成果により川崎病患児の血清に内在する微生物群が明らかになり、病原体候補カタログを作成できた。 さらに、川崎病患児の腸内や咽頭に内在するあらゆる病原体を網羅的に把握するため、メタゲノム解析を行った。腸内環境については、川崎病遠隔期や対照群健常児ではBifidobacterium属を主体とする類似した環境にあったが、川崎病急性期の腸内にはBifidobacterium属が少なく患児毎にそれぞれ異なる特徴的な様相を呈していた。咽頭環境についても、川崎病急性期群と対照群では異なった傾向が見られた。また、一部患児の腸内・咽頭からはウィルス配列(ヒトアデノウィルス・WU ポリオーマウィルス)が検出された。川崎病急性期の腸内や咽頭では健常なバランスが破綻し乱れた様相を呈していた。患児個々の病態を経時的に追加して得られる縦断的な情報を併せることで、知見が拡張され病態の究明が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
科研費申請以前から病院との連携体制がとれており、倫理申請等の手続きが既に完了していたことや検体確保が比較的スムースに執り行うことができたため、網羅配列解読へ迅速に進むことができた。また、網羅配列解読による解析システムがひと通り構築済みであったことも幸いし、解読後の作業に労する時間を短縮することができた。これら検体確保と解析システムの充実が、計画段階以上に迅速に遂行できた理由である。
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今後の研究の推進方策 |
川崎病に関連すると推測される腸内細菌フローラの検討にあたり、川崎病急性期の便サンプルにはBifidobacterium属が有意に少ないだけでなく、患児サンプル毎に優勢な生物属が異なっていた(P1:Akkermansia、P2:Parabacteroides、P3:Mastadenovirus、P4・5:Enterococcus、P6:Bacteroides・Akkermansia、P7:Streptococcus、P8:Escherichia)。相対的に Streptococcus属の検出量がどの患児からも多く検出され、統計的にも優位なことから、該当する菌の個別分離・同定を試みる必要がある。現在、継続的に分離を試みており、得られたクローン株が患児全般的に共通する因子となりうるかどうか解析する必要がある。今後、これら分離菌を使用した動物感染実験など、川崎病モデルになりうるのかどうか評価したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度の経費を若干、次年度へ繰り越した。それら合わせて次年度では、川崎病に関連する細菌の培養検査を行いたい。一般診療における細菌培養検査に加え、通常行わない嫌気性菌培養・抗酸菌培養検査も合わせて行う。(遺伝子検査・免疫検査後に判明した病原体候補を逃さないよう、予め増菌培養させ確保しておく) また、患者血清の特異抗体・抗原の検出として、細菌培養検査、遺伝子検査の結果を踏まえながら、患者のペア血清(急性期、回復期)を用いて自己抗原様の物質の探索を行う。入院時の試料(血液・咽頭ぬぐい液・便・尿)の細菌培養検査で検出された細菌から総蛋白質を2次元電気泳動法(等電点/分子量の違いで分離)にて蛋白分離を行い、ペア血清によるWestern ブロット解析にて陽性反応を示す蛋白・糖抗原スポットを特定する。もし、糞便から培養できた細菌群で陽性反応が見られた場合、選択培地で混在菌を分離して純培養・株化し(e.g., Bacteroides, Clostridium sp.)、再度Western ブロット解析を行い、特徴的な抗原スポットを厳密に特定する。その候補抗原をLC-MS/MSにて解析・同定する。これまでの知見では、BCGのHSP65に対する抗体価上昇が知られており、コントロールの一つとして使用する。
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