研究課題/領域番号 |
23590527
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
黒田 誠 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, センター長 (80317411)
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研究分担者 |
関塚 剛史 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (40462775)
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キーワード | 川崎病 / レンサ球菌 |
研究概要 |
川崎病患児の腸内や咽頭に内在するあらゆる病原体を網羅的に把握するため、8名の川崎病患児の微生物フローラ・メタゲノム解析を行った結果、川崎病急性期の腸内にはBifidobacterium属が少なく患児毎にそれぞれ異なる特徴的な様相を呈していることが示唆された。特筆すべきこととして、複数の患児の急性期便からレンサ球菌属(Streptococcus)が相対的に多く検出された。特に患児P7からの検出率が際立って多く(細菌配列1,906,171 readsのうち1,463,295 reads(77%))、健常児の健全な腸内フローラとは明らかに異なる細菌フローラ組成であった。患児P7の急性期便からレンサ球菌の分離培養を試みたところ、通常の分離培養で使用される「PEA血液寒天培地と好気培養」の組み合わせでは増殖が見られず、より栄養価の高い「チョコレート寒天培地と嫌気培養」の組み合わせで異なる7株のレンサ球菌を分離することができた。7株のゲノム解読を行い分子系統分類を行ったところ、患児P7のレンサ球菌は、肺炎球菌S. pneumoniae, 心内膜炎・化膿性疾患に関わるS. sanguinisに近い系統群に分類されることが分かった。個々菌株の全ゲノム配列を解読した結果、特徴的なスーパー抗原は同定できなかったが、患児8名中5名で共通して特有の菌株(choco_25)が顕著に検出された。Choco_25株のゲノム情報を精査した結果、IgAプロテアーゼ、C5aプロテアーゼに類する免疫逃避に関わる遺伝子と、食中毒菌Listeria monocytogenes の細胞侵入因子Internalin Aと類似性を有する遺伝子が検出された。Choco_25株と同類のレンサ球菌の検出率が高かったことから、動物実験等を行い病原性の評価を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患児P7の川崎病急性期の腸内にはStreptococcus属が非常に多かったが(細菌配列1,906,171 readsのうち1,463,295 reads(77%))、これは他の児の腸内フローラだけでなく咽頭フローラと比較しても非常に特異な組成であった。川崎病患児のT細胞レセプター(TCR)レパートリーはスーパー抗原特異的なレパートリーと類似しており、TCRのVβ2遺伝子を強く発現させるグラム陽性菌(Streptococcus属・Staphylococcus属)が分離されたといった過去の報告から、スーパー抗原活性を持つ細菌の川崎病への関与も示唆されるが、P7の腸内フローラはこれらの報告を支持し得る興味深い結果である。分離したレンサ球菌株のゲノム情報から説明することが困難な状況であるが、細胞毒性および動物実験の準備が整ってきたため、今後の課題として評価検討して行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
患児8名の治療前後における腸内フローラ解析が終了したが、本計画中に20名の追加検体を得ることができた。これら検体の追加解読を行い、より重厚なデータをもって川崎病に関連する細菌種の同定を行う予定である。 また、患児P7の川崎病急性期の腸内にはレンサ球菌属が非常に多く、菌株を複数分離している。分離したレンサ球菌株の細胞毒性および動物実験により準備が整ってきたため、今後の課題として評価検討して行きたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
追加検体のメタゲノム解析にかかる消耗品類と、レンサ球菌・分離株の病原性評価において、細胞培養、ELISA等サイトカインアッセイのELISA消耗品類、実験動物に充当する。 備品類の購入は考えていない。
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