研究概要 |
大腸菌の実験室株(K-12由来株)にも共通に存在する大腸菌のコールドショック蛋白質の一つであるCspEは、低コピープラスミドを用いて構成的に発現させると、腸管出血性大腸菌O157の病原性因子の一つである3型蛋白質分泌装置(locus of enterocyte effacement: LEEにコードされている)の発現が顕著に抑制されることが我々の解析から明らかとなっていた。LEE外部にコードされ、LEE遺伝子発現のマスター・レギュレーターをコードしているpchA,B,Cの転写発現におけるCspEの作用を解析したところ、CspEを低コピープラスミドで構成的に発現させるとpchAの転写が顕著に低下する一方、pchBとpchCの転写はほとんど変動がなかった。次に、cspEの欠失株を構築したところ、野生株と比較してpchAの転写上昇が確認されたことから、CspEはpchAの転写またはその上流に存在する遺伝子を介してLEEの発現を制御していることが明らかとなった。CspE以外のCsp(CspA, C, D, E, G, H)についてマルチコピー効果を同様に解析したところ、少なくともCspCがCspEと同様にLEEの発現制御を行っていることが明らかとなった。 本研究課題と密接に関連した発現制御機構として、LEEの発現に影響を及ぼす制御遺伝子の機能解析を行う必要が生じた。これらの解析から、LEE内部にコードされる発現制御因子Lerと、LEE外部にコードされる発現制御因子LrhAがそれぞれ独立に、LEEと協調的に発現上昇が起こる病原性因子の一つであるエンテロヘモリシンの活性を制御していることが明らかとなった(Iyoda et al., 2011)。
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