研究課題
EBウイルスはヒト正常Bリンパ球を形質転換(不死化)して無制限に増殖可能なリンパ芽球様細胞株(LCL)に変換する活性をもつ。不死化Bリンパ球は免疫機能が低下した宿主内で増殖して移植後リンパ増殖症の原因となる。我々はこれまで、EBウイルスの不死化タンパク質EBNA3Cはがん抑制遺伝子p16(INK4A)とp14(ARF)の発現を抑制することによってLCLの増殖維持に寄与していることを明らかにしてきた。p16(INK4A)はpRbがん抑制タンパク質の上流で機能し、p14(ARF)はp53がん抑制タンパク質の上流で機能することが知られている。本年度は、実際にEBNACがp16(INK4a)-pRbがん抑制経路およびp14(ARF)-p53がん抑制経路を制御しているか否かを検討した。 子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)のE7タンパク質とE6タンパク質は、それぞれpRbとp53を不活化する活性をもつ。そこで本研究では、これらのウイルス蛋白質の機能がEBNA3Cの機能を相補できるか否かを調べた。その結果、E7とE6をそれぞれ単独に発現させるとEBNA3Cの機能は部分的に相補され、E7とE6両方を発現させるとほぼ完全にEBNA3Cの機能は相補された。pRbを不活化できないE7変異体は相補活性を失っていた。この結果から、EBウイルスはp16(INK4a)-pRb経路とp14(ARF)-p53経路を制御することにより細胞不死化に寄与していることが明らかになった。 本研究は、EBウイルスが他の癌ウイルスと同様に、2大がん抑制経路p16(INK4a)-pRb経路とp14(ARF)-p53経路をターゲットにしていることを明らかにした点で重要である。
3: やや遅れている
平成23年度には以下の2つの研究計画を行う予定であった。(研究計画1)「EBウイルスが惹起するBリンパ球増殖におけるp16(INK4A)-pRbおよびp14(ARF)-p53経路の意義を明らかにする。」(研究計画2)「EBNA3Cオン、オフにおけるINK4A/ARF遺伝子領域へのヒストン修飾因子の会合の解析。」(研究計画1)についてはほぼ予定通りに達成できたと考えている。(研究計画2)については、研究実施に必要な試薬の一部が入手困難であったため、実施を延期した。その代わりに、(研究計画4)「EBNA3CによるINK4A/ARFレギュレーターの発現制御。」のうち、マイクロアレイ法を用いた網羅的な遺伝子発現解析の一部を実施した。
平成23年度までの研究により、EBNA3CがINK4A/ARFの発現を抑制すること、さらに、EBNA3Cがp16(INK4A)-pRbがん抑制経路とp14(ARF)-p53がん抑制経路を制御することによりBリンパ球の不死化に寄与していることを明らかにした。平成24年度以降は、EBNA3CがいかなるメカニズムでINK4A/ARF発現を抑制しているかを明らかにする。そのために、INK4A/ARF遺伝子領域の側からの解析、および、EBNA3Cタンパク質の側からの解析の2方面から研究を進める。まず、INK4A/ARF遺伝子領域側からの解析として、平成23年度に実施できなかった(研究計画2)「EBNA3Cオン、オフにおけるINK4A/ARF遺伝子領域へのヒストン修飾因子の会合の解析。」を行う。さらに、EBNA3Cタンパク質側からの解析として、(研究計画3)「EBNA3Cの必須領域に会合する宿主タンパク質の同定。」、および、(研究計画4)「EBNA3CによるINK4A/ARFレギュレーターの発現制御。」を実施する。最後に、Bリンパ球以外の正常細胞においても、EBNA3Cがオンコジーン誘発性のINK4A/ARF発現誘導を抑制し得るか検討するために、(研究計画5)「Bリンパ球以外のヒト正常細胞におけるEBNA3CのINK4A/ARF発現抑制能の検討。」を実施する予定である。(研究計画2)ではEBNA3Cオン、オフを制御できる不死化Bリンパ球を用いて実験を行う予定である。また、(研究計画3)(研究計画4)を行う上で必要な細胞株もすでに樹立しており、準備は十分に整っている。
平成23年度に実施予定であったが実施できなかった(研究計画2)「EBNA3Cオン、オフにおけるINK4A/ARF遺伝子領域へのヒストン修飾因子の会合の解析。」、および、(研究計画4)「EBNA3CによるINK4A/ARFレギュレーターの発現制御。」の一部に使用する予定である。
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