研究概要 |
(1) PIV5およびSV41のF蛋白のキメラ解析と変異解析を行った結果, PIV5のF蛋白の頭部領域の21個のアミノ酸をSV41のF蛋白の対応アミノ酸で置換した変異F蛋白は SV41のHN蛋白と機能的相互作用して細胞融合を誘導する能力を獲得するかわりに, PIV5のHN蛋白と機能的に相互作用する能力を失っていることを見出した。一方, PIV5のF蛋白はムンプスウイルス(MuV)のHN蛋白とも機能的相互作用できることを既に報告しているが, 興味深いことに, 上記の変異F蛋白はこの能力を保持していることが判明した。 (2) 二分子蛍光相補性法を用いて, HN蛋白とF蛋白の物理的相互作用を解析した。そのために, PIV5あるいはSV41のF蛋白の細胞内領域に蛍光蛋白(Venus)のC末側半分を付加したもの, 一方, PIV5あるいはSV41のHN蛋白の細胞内領域にVenusのN末側半分を付加したものを作製した。これら4種類の蛋白を用いて, BHK細胞における共発現系で解析したところ, すべてのHN-Fの組み合わせで蛍光が認められたが, いずれのF蛋白も系統的に遠縁である HPIV1のHN蛋白, あるいは細胞の膜蛋白であるCD98との共発現でも蛍光を発することが判明した。そこで, VenusのN末側半分の150位, 一方, C末側半分の201位にアミノ酸変異を導入したものを作製して, 同様の解析を行った結果, 上記のようなVenusの非特異的会合が見られなくなり, 細胞融合の起こる組み合わせ(例えば, SV41のHN蛋白とF蛋白)でのみ蛍光が認められた。ただし, この蛍光は37℃では観察されず, 25℃まで温度を下げないと認められないことから, HN蛋白とF蛋白の物理的相互作用は, 生理的条件下では極めて親和性が弱いこと, あるいは極めて短時間しか生じないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
光架橋(RSPC)法を用いたHN蛋白とF蛋白の物理的相互作用の検出が難航しているため。ただし平成24年度の研究実績の概要に記したように, 二分子蛍光相補性法の解析結果から, 光架橋法においても従来の条件(生理的条件)では検出できない可能性があることから, 検出条件の改善の余地はあるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 平成24年度の研究実績の概要に記したように, SV41のHN蛋白と機能的に相互作用して細胞融合を誘導する能力を獲得しているが, PIV5のHN蛋白との機能的相互作用能を失った変異PIV5F蛋白はMuVのHN蛋白と機能的相互作用する能力を保持している。そこで, これら3種類のウイルスのF蛋白のアミノ酸配列を比較解析して MuVのHN蛋白との交差反応性に関わるアミノ酸群を特定し, 点変異導入法によってその検証を行う。 (2) 二分子蛍光相補性法を用いてSV41のHN蛋白と各種の変異PIV5 F蛋白との物理的相互作用を解析し, SV41のHN蛋白と機能的に相互作用する能力を獲得した変異PIV5 F蛋白が, 物理的にもSV41のHN蛋白と相互作用する能力を獲得しているか否かを検証する。 (3) 光架橋法を用いてSV41あるいはPIV5のHN蛋白とF蛋白の物理的相互作用を解析する。平成24年度の研究実績の概要に記したように, 生理的条件ではこの相互作用を検出できない可能性が高いことから, 低温での検出を試みる。また, 従来の化学架橋法を用いて同様の解析を行う。検出系が確立できた暁には, 変異PIV5 F蛋白とSV41のHN蛋白との機能的相互作用と(架橋法で検出した)物理的相互作用とが相関するか否かを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1) HN-F機能的相互作用の解析に用いる主な消耗品:PCR産物クローニングキット, DNAライゲーションキット, 制限酵素類, 細菌用培地類, 細胞培養液, 牛胎仔血清, 蛋白電気泳動用試薬類, ウェスタンブロット用試薬類, プラスチック器具類 (2) 二分子蛍光相補性法に用いる主な消耗品: 細菌用培地類, 細胞培養液, 牛胎仔血清, プラスチック器具類 (3) 光架橋法に用いる主な消耗品: 光架橋性を持つ2種のアミノ酸(L-photo-Methionine, L-photo-Leucine), MethionineとLeucineを含まない細胞培養液, 透析処理済み仔牛血清, プラスチック器具類
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