研究課題
Gagと相互作用する感染抵抗性因子としてTRIM5αと、Cyclophilin Aが知られている。近年、TRIM5遺伝子へのサイクロフィリンA遺伝子の挿入が、旧世界ザルで起きていることが報告された。そこでカニクイザルのTRIM5遺伝子を調べたところ、TRIMCypの頻度がアカゲザルに比較して高いことが明らかとなった。また、TRIMCyp遺伝子を持つ個体ではTRIMCypのCypA部分の配列に、66番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)でかつ143番目がリジン(K)のDKハプロタイプと、66番目のアミノ酸がアスパラギン(N)でかつ143番目がグルタミン酸(E)のNEハプロタイプの2つのハプロタイプが存在することが明らかになった。TRIMCypタンパク質の抗ウイルス効果を調べたところ、DKハプロタイプのTRIMCypはアカゲザルTRIMCypとは異なりHIV-1の感染を抑制し、HIV-2およびSIVmacの感染は抑制しなかった。一方でNEハプロタイプのTRIMCypはアカゲザルTRIMCypと同様に、HIV-1よりもむしろHIV-2の感染を強く阻害したが、SIVmacの感染は阻害しなかった。TRIMCypの結合は、いわゆるCypA結合ループとして以前から知られているカプシドのN末端から数えて4番目と5番目のαヘリックス間のループ(L4/5)と考えられる。これまでに作成されたサル指向性HIV-1はL4/5をSIVmac由来のものに置き換えてあるが、いまだカニクイザルTRIM5αからの逃避は完全ではない。しかし、DKおよびNEの両方のハプロタイプのカニクイザルTRIMCypによる抑制は回避していることが明らかとなった。以上の結果から、今後、サル指向性HIV-1の感染実験はTRIMCyp変異を両染色体にもつ個体を用いることが望ましいと考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
感染初期過程に関わる宿主因子として、これまでTRIM5αに着目してきたが、カニクイザルにおいてはTRIM5遺伝子のTRIMCyp変異の頻度が高く、TRIMCypタンパク質の抗ウイルス効果のほうが重要であることが明らかとなり、研究は着実に進展している。
今年度、サルにおけるHIV感染抑制因子についての詳細が明らかになり、TRIMCypを回避するHIV-1の作成に成功している。しかし、TRIMCypによる感染抑制を完全に回避してもなお、HIV-1のサル細胞における増殖は、ヒト細胞における増殖に比較して悪いことが改めて確認された。次年度は感染性の向上を目指したウイルスの改変と平行してヒト細胞由来の感染を促進する因子の探索を行う。
今年度末にレトロウイルスの作成を委託したが、まだ完成していない(納品されていない)ために支出が次年度予定になった。H24年度は計画に変更はないので申請書に沿って執行する。
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