研究課題/領域番号 |
23590545
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
有海 康雄 熊本大学, エイズ学研究センター, 准教授 (60303913)
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キーワード | HCV / HIV-1 / P-body / ストレス顆粒 / 宿主因子 / APOBEC3G / MOV10 |
研究概要 |
P-bodyは、HCVをはじめ多くのウイルス感染の標的の場として知られているが、抗HIV-1因子であるAPOBEC3GやMOV10もP-bodyに局在する。しかしながら、これら抗HIV-1因子のP-body局在の意義やHCV生活環における役割については未だ不明な点が多い。そこで、今年度はP-bodyに局在する抗HIV-1因子APOBEC3G及びMOV10のHCV生活環における役割について解析を試みた。その結果、HCV非感染細胞では、APOBEC3G及びMOV10はP-bodyに局在したが、HCV-JFH1感染細胞や全長HCV-O RNA複製O細胞においては、APOBEC3G及びMOV10のP-body局在が撹乱され、脂肪滴周辺にリクルートされ、HCV Coreと共局在した。さらに免疫沈降法により、HCV CoreとAPOBEC3G及びMOV10が結合することも見出された。しかしながら、APOBEC3Gを強制発現しても抗HCV効果は観察されなかった。一方、内在性MOV10をノックダウンしてもHCV複製の増強は見出されなかった。以上の結果より、APOBEC3G及びMOV10はHIV-1と異なり、HCVの複製に対する制限因子として作用しないことが判明した。一方、核内のスペックル構造体に局在するがん抑制因子PMLが感染性HCV伝播に関与していることを明らかにした。PMLはHCV RNA複製には関与せず、後期ステップの感染性HCV産生に関与していることが今年度の研究成果より示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の本共同研究により、HCVが抗HIV-1因子であるAPOBEC3GやMOV10のP-body局在を破綻させ、HCV産生の場である脂肪滴周辺にハイジャックすること、そしてHCV Coreタンパク質とAPOBEC3G及びMOV10が結合することが見出された。これらの結果、HCVによるAPOBEC3G及びMOV10の機能抑制の可能性が示唆された。以上の結果より、異なったRNAウイルス間におけるP-body因子の作用機序の相違点が見出され、興味深い。しかしながら、HCVとP-body局在抗HIV-1因子であるMOV10やAPOBEC3Gが相互作用することが判明したものの、そのHCV生活環における役割については不明であるので、次年度の研究課題としたい。また、核内スペックルに局在するPMLが感染性HCV粒子産生に関与していることを明らかにし、国際会議や国際雑誌で研究成果を発表したので、現在までの達成度はおおむね順調に進展していると自己評価したい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果より、APOBEC3Gと少なくとも内在性MOV10はHCVの抑制因子として機能しないことが示唆された。しかしながら、HCVによるAPOBEC3GとMOV10相互作用の生理的意義の解明が今後の検討課題である。一方、我々はMOV10やAPOBEC3GがレトロトランスポゾンであるLINE-1のレトロトランスポジション能も抑制することを見出しているので、これら、P-bodyに局在する抗HIV-1因子 MOV10のHCVとLINE-1における役割や作用点の詳細をHIV-1をモデルに比較しながら解明したい。さらに同じレトロエレメントであるB型肝炎ウイルス(HBV)についても、P-body因子やストレス顆粒因子のHBV生活環における役割について検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費直接経費90万円の使用用途は、最終年度でもあるので、国際会議での研究成果の発表に必要な旅費として計上したい。5月20日~25日まで米国ニューヨーク州Cold Spring Harbor Laboratoryで開催されるレトロウイルス国際会議で研究代表者本人と同じ研究室に所属する研究協力者 黒木美沙緒博士が本研究課題で得られた研究成果を発表する予定であるので、その旅費等に使用する。また、ゲル切り出し機器 ゲルみえ~るを購入予定である。
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