研究課題/領域番号 |
23590546
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小糸 厚 熊本大学, 生命科学研究部, 特任教授 (70231305)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | レトロウイルス / シチジン脱アミノ化酵素 / レトロエレメント / HIV / APOBEC / 小動物モデル / ゲノム |
研究概要 |
げっ歯類やウサギなどの実験用小動物にヒト型CD4、コレセプター分子を導入後も、十分なHIV複製が得られないことが示されてきたが、その分子基盤は依然として不明な点が多い。シチジン脱アミノ化酵素APOBEC1は、ヒトではコレステロール代謝に重要なアポリポタンパク質(apo)B mRNAのエディティングに関与することが知られてきた。我々は、マウスやウサギでは小腸、肝臓のみならず脾臓、胸腺、卵巣、精巣など様々な組織でAPOBEC1 mRNAが強く発現していることを見出した。我々がこれまでに明らかにしたin vitroにおけるAPOBEC1の抗HIV、抗レトロエレメント活性、さらにはAPOBEC1 mRNAの発現パターンも, 小動物においてAPOBEC1は外来レトロウイルスや内在性レトロエレメントを標的とした強力な自然防御機構として機能していることを示唆している。この可能性を検証するため、APOBEC1ノックアウトマウスにおける内在性レトロエレメントの細胞内複製を解析中である。ヒト・マウスゲノムには何百万年も昔にレトロエレメントがはいりこみ、ゲノム進化の原動力となってきた。LTR型の内在性レトロウイルスだけでも、ヒト・マウスゲノムの10%近くを占める。その多くが不活性化変異の蓄積によって複製能力を失っているが、マウスのIAPやMusD配列の一部は転移能力を残している。野生型とAPOBEC1ノックアウトマウスにおけるIAPやMusDなど内在性レトロウイルス・レトロエレメントの複製能を解析中である。本研究によりLTR型の内在性レトロウイルスと起源を同じくし、その複製サイクルにも共通の点が多いHIVが、げっ歯類やウサギなどの実験用小動物で十分に複製できない分子基盤がより明確になると期待される。さらに種間のウイルス伝搬を阻止する自然免疫機構の理解に貢献できるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
APOBECファミリーのプロトタイプであるAPOBEC1は、ヒトでは小腸でのみ発現がみられ,コレステロール代謝に重要なapo B mRNAのエディティングに関与することが知られてきた。我々は、げっ歯類やウサギのAPOBEC1がゲノムRNAのみならず、プロウイルスDNAをもターゲットとし, HIV感染を強力に抑制することを明らかにした。これらの小動物ではAPOBEC1は脾臓、胸腺、卵巣、精巣など様々な組織で発現しており、自然防御機構として機能し、その標的は内在性レトロエレメントなどへ広がりをみせると予想された。我々は、これらの内在性レトロウイルスや非LTR型レトロトランスポゾンLINE-1が小動物由来のAPOBEC1分子により強力に阻害されることを見出した。このように抗HIV、抗レトロウイルス活性をもつ小動物由来APOBEC1の標的は内在性レトロエレメントなどへと、さらに広がりをみせている。ヒトなど霊長類においてはAPOBEC1はDNAミューテーター活性を失い、apo B mRNAエディティングに特化して進化・機能しているが、小動物などの哺乳類では依然として強力なDNAミューテーター活性を有し、内在性および外来ウイルスに対する広範な防御機構として機能していることを明らかにしつつある。APOBEC1ノックアウトマウスとHIVレセプター発現マウスを掛け合わせることにより、強力な抗HIV-1阻害因子をノックダウンすることができ、HIV-1感受性マウスの完成に一歩近づくことが期待される。また、哺乳類ゲノムの実に4割以上を占めるにいたったレトロエレメントと、それに対する制御機構であるAPOBECファミリーが進化的に攻防を繰り返してきたことが伺われるが、APOBECファミリーのより詳細な機能解明は、レトロウイルス感染に対する制御のみならずゲノム進化のメカニズムを理解するうえで重要である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に野生型ならびにAPOBEC1ノックアウトマウスよりマウス胎仔由来繊維芽細胞(MEF)を複数、樹立した。マウス内在性レトロウイルスIAPあるいはMusDカセットを細胞に導入し、RNAに転写された情報がスプライシングを受けて逆転写されると、EGFPあるいはNeo遺伝子が発現するシステムを用い、マウスMEF細胞内での複製能を解析していく。また、非LTR型レトロトランスポゾンであるLINE-1に対する影響も解析していく。ヒトCD4/CXCR4トランスジェニックマウスは、マウスCD4陽性リンパ球に特異的にヒトCD4/CXCR4が強く発現している。HIV-1の標的細胞特異的な感染をマウス個体内で再現することが可能である。このマウスはヒト血球系細胞を分化・増殖させた免疫不全マウスではなく、正常マウスであるため、この外来性レトロウイルスに対する宿主免疫応答を個体レベルで、系統的に解析することが可能である。このマウスと抗HIV活性が明らかとなったAPOBEC1ノックアウトマウスを用いて、APOBECによるHIV-1抑制の分子機構を解析し、HIV-1が複製可能なマウスモデル作製を目的とする。Ex vivoにおけるマウスリンパ球でのHIV-1複製、およびHIV-1ゲノム(プロウイルスDNAとゲノムRNA)におこる変異を通常のPCRならびに3D PCRを用いて解析する。これまで、プライマリーのマウスリンパ球内でおこるHIV-1ゲノム変異の詳細については、報告がない。強力な抗HIV-1阻害因子であるAPOBEC1をノックアウトしたマウスリンパ球内で、HIV-1プロウイルスDNAとゲノムRNAにおこる変異を詳細に解析することで、新たな抗HIV-1阻害因子の発見につながる可能性もある。
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次年度の研究費の使用計画 |
DNA塩基配列決定のための試薬、制限酵素、RNA抽出試薬、逆転写酵素、などの分子生物学実験用試薬を購入する必要がある。real-time PCR用のプライマーの設計および試薬代も必要である。さらに細胞培養用培地、牛胎児血清、フラスコ、プレート、チューブなどの消耗品代に加え、マウスの維持・繁殖に必要な経費に研究費は使用される。国際学会での研究発表のための海外旅費、また論文投稿のための英文校閲料・投稿料・別冊代金として研究費の一部を使用する。
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