研究課題
I. 生後1年以内のHCV(+)とHCV(-)のマウスB細胞のRNAを高純度に精製し(RIN>8.0)、マイクロアレイ解析を行った。また、生後1年以上のマウスのB細胞とBリンパ腫(共にHCV+)のRNAを高純度に精製し、マイクロアレイ解析を行った。その結果、HCVの発現やBリンパ腫の発生に伴ってそれぞれ1000以上あるいは3000以上変動する遺伝子があった。ネットワーク解析では、HCVの発現により感染や炎症、自己免疫疾患などで変動するシグナル伝達経路の修飾が見られた。また、Bリンパ腫の発症に伴って、リンパ腫、白血病、Bリンパ腫、非ホジキンリンパ腫の発生で変動するシグナル伝達経路の修飾が観察された。この中で、Bリンパ腫組織でのFosの発現低下や、C3の発現上昇が顕著に観察された。また、Bリンパ腫組織におけるIL-2R、Lymphotoxin βRの発現上昇や腫瘍抑制因子A20の発現抑制も明らかとなった。これらの変化は、♂、♀共に観察された。II.マイクロアレイ解析からLymphotoxin βR , A20の下流のNF-κB経路の活性化が予測された。また、A20蛋白質の発現抑制もBリンパ腫組織で観察された(感染研、水落、楠、水上博士らとの共同研究)。さらに共同研究でNF-κBのBリンパ腫組織における細胞内局在を解析している。III. ドイツのGoethe-University HospitalのPeveling-Oberhang博士との共同研究で、HCV陽性のBリンパ腫においてmiR-26bの発現が低下している事が明らかとなった。miR-26bは腫瘍抑制効果があり、HCV陽性のsplenic marginal zone lymphomaにおける発現低下が報告されている。
1: 当初の計画以上に進展している
HCVがBリンパ球で引き起こす宿主因子の発現修飾をマイクロアレイ法で網羅的に解析した。この解析も当初計画通りに進行しており、HCVの発現やBリンパ腫発生に伴って生じる宿主因子の発現変動が明らかとなった。コンピューターによるシグナル伝達経路解析で、Bリンパ腫マウスにおけるリンパ腫発生制御経路の活性化が明らかとなった。また、HCVの発現により、ウイルス感染や炎症などを制御する経路が活性化していた。さらに、Bリンパ腫発生においてFos並びにJunの発現が低下しており、これらが構成する転写因子AP-1の作用が低下している事が予測された。また、補体因子であるC3の発現上昇も明らかとなった。さらに、Lymphotoxin βRの発現上昇やA20の発現抑制からNF-κB経路の活性化が強く示唆され、リンパ腫組織での検証を国立感染症研究所との共同研究で進めている。NF-κBの発現自体は有意な変化が見られていないが、細胞内局在変化などの可能性が示唆されている。以上の様な修飾は♂、♀共に見られ、HCVの直接作用からのBリンパ腫発症には性差が比較的少ない可能性が明らかとなった。また、HCV陽性のBリンパ腫におけるmiR-26bの発現低下もドイツのJohann Wolfgang Goethe大学との共同研究で明らかとなった。miR-26bはリンパ腫のみならず肝癌や肺癌などでの関与が報告され、Rb蛋白質リン酸化の抑制やATF2の抑制によるMAPKシグナル経路の抑制、NF-κBやIL-6経路の活性化抑制にも関与するとの報告がある。以上の様にHCV関連Bリンパ腫発症に重要な制御経路の解明が進み、予定以上に研究が進捗している。
HCVの直接作用によるBリンパ腫の発症において、IgG産生の変化やメモリーB細胞分化誘導、制御性T細胞との関連性はこれまでの解析結果からは見いだされていない。一方、マイクロアレイ解析やmicroRNAの解析から、HCV関連Bリンパ腫発症に関与するシグナル経路が明らかにされ、AP-1, C3, NF-κB経路やmicroRNA-26bの重要性が強く示唆されている。また、Bリンパ腫では、IL-2Rαの発現上昇がアレイ解析で見られており、sIL-2Rα産生上昇につながったと考えられた。以上のシグナル伝達経路の修飾に関しては♀と♂の間での顕著な性差は認められていない。今後はNF-κBの腫瘍組織における挙動を明らかにするため共同研究も進めながら組織染色による解析等を行っていく。また、アレイ解析で最も大きな発現変動が観察されたFos,C3, Lymphotoxin βRなどの 因子の発現変動を定量PCR法やウェスタンブロット法によって検証を進める。また、microRNA-26bのリンパ腫発症における機能についても共同研究を進める。昨年度までの研究成果に関しては第60回日本ウイルス学会や国際学会(あわじしま感染症・免疫フォーラム、IGAKUKEN International Symposium on Control of influenza and hepatitis) 等での研究発表によって主に公表してきたが、学術論文としては未発表である。今年度中に得られる研究成果も取り纏めて、学術論文として発表を行う予定である。
1.物品費 (マイクロアレイ解析の結果を検証するための定量PCRを行うプライマー、プローブ、ウェスタンブロット用試薬、分子生物学用試薬、細胞培養用試薬等)110万円2.旅費(研究成果を学会で発表する、あるいは共同研究打ち合わせのための旅費) 10万円
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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巻: 未定 ページ: in press
not yet
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