研究課題/領域番号 |
23590549
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
高橋 忠伸 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (20405145)
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研究分担者 |
南 彰 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (80438192)
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キーワード | シアル酸 / インフルエンザウイルス / N-グリコリルノイラミン酸 / 受容体 / 感染 / CMP-N-アセチルノイラミン酸 水酸化酵素 / Neu5Gc / CMAH |
研究概要 |
インフルエンザウイルスの受容体と言われるノイラミン酸(シアル酸)の分子種は、N-アセチル体(Neu5Ac)とN-グリコリル体(Neu5Gc)に大別される。Neu5Gcは、ヒトのみが合成できず、パンデミックを起こす新型ウイルス発生の場になるブタなどの中間宿主動物で、ウイルス受容体として機能することが予想される。インフルエンザウイルス受容体に関する大部分の研究は、Neu5Acで行われてきた。本研究は、新型ウイルス発生に関与することが予想されるNeu5GcのIAV 結合性とインフルエンザウイルス受容体としての機能性、パンデミックとの関連性をウイルス学的および糖鎖生物学的アプローチを用いて解析することを目的とする。前年度までにサル腎COS7細胞由来Neu5Gc合成酵素(CMP-Neu5Ac hydroxylase; CMAH)遺伝子を導入したヒト乳癌MCF7細胞が、Neu5Gcがほとんど検出されない親細胞株と比較して豊富なNeu5Gcを安定的に発現することが確認された。本年度の研究は、1)Neu5Gc高発現細胞と親細胞の間で、Neu5Gc結合性の高いウマインフルエンザウイルスの感染性を比較、2)Neu5Gc高発現細胞と親細胞の間で、ヘマグルチニンへの変異導入によりNeu5Gc結合性を獲得させたヒトインフルエンザウイルスの感染性の比較、を実施した。 具体的には、Neu5Gc結合性の高いウマインフルエンザウイルスの感染性は、親細胞と比較してNeu5Gc高発現細胞で有意に低下した。また、Neu5Gc結合性を獲得させたヒトインフルエンザウイルスの感染性においても、親細胞と比較してNeu5Gc発現細胞で有意に低下した。Neu5Gc結合性のないヒトインフルエンザウイルスの感染性は両細胞間で差が見られなかった。これは研究目的のNeu5Gcのウイルス受容体機能を示すことに一致しない結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト由来細胞はCMAH遺伝子の一部欠損により、CMAH活性体を発現せず、Neu5Gcを合成できない。サル由来細胞から完全なCMAH遺伝子をクローニングし、ヒト由来細胞へ導入することによりNeu5Gcを高発現する細胞の作製を試みた。前年度までに遺伝子工学的にサルCMAH遺伝子をヒト由来細胞に導入することでNeu5Gc高発現細胞を作製することに成功した。そこで当初の計画通りに、親細胞とNeu5Gc高発現細胞の間でインフルエンザウイルスの感染性の比較を試みた。 本年度では、Neu5Gc結合性の高いウマインフルエンザウイルスにおいて、親細胞とNeu5Gc高発現細胞の間で感染性を比較した。また、リバースジェネティクス法により作製した、ヘマグルチニンへの変異導入によりNeu5Gc結合性を獲得させたヒトインフルエンザウイルスにおいても、親細胞とNeu5Gc高発現細胞の間で感染性を比較した。Neu5Gc結合性の高いウマインフルエンザウイルスは、親細胞と比較してNeu5Gc高発現細胞で有意に感染性が低下した。さらに、Neu5Gc結合性を獲得させたヒトインフルエンザウイルスもウマインフルエンザウイルスと同様の結果であった。一方、Neu5Gc結合性のないヒトインフルエンザウイルスの感染性は両細胞間で差が見られなかった。両細胞間のNeu5Acのウイルス受容体機能は有意な差が見られなかった。本研究はNeu5Gcの受容体としての機能評価を目的としていたが、この結果はNeu5Gcが受容体と機能するというよりはウイルス感染に対して抑制的に作用することを示していた。今後は、ウイルスのNeu5Gc結合性と細胞上のNeu5Gc発現との間の関連性を明確にするために、ウイルス株数を増やしての感染性の比較を実施する。また、Neu5Gc発現によりウイルス感染性が低下する機構を調査する。
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今後の研究の推進方策 |
Neu5Gc結合性の高いウマインフルエンザウイルスやNeu5Gc結合性を獲得させたヒトインフルエンザウイルスは、親細胞と比較してNeu5Gc高発現細胞で有意な感染性の低下を示した。ウイルスのNeu5Gc結合性と細胞上のNeu5Gc発現との間の関連性を明確にするために、宿主や亜型の異なるウイルス株数を増やして両細胞間の感染性の比較を実施する。 本年度の予備的な結果は、Neu5Gcがインフルエンザウイルスの受容体として機能せず、むしろウイルス感染に抑制的に作用することを示していた。これは当初の目的である、Neu5Gcのウイルス受容体機能を示すことに一致しない結果であった。しかしながら、今回の結果はMCF7細胞のみで示されているので、細胞株に特異的なものであるかもしれない。Neu5Gcの前駆体であるN-グリコリルマンノサミンを別のヒト由来細胞株へ添加することによりNeu5Gcを一時的に発現させたヒト細胞株を作製する。その細胞でのNeu5Gc結合性ウイルスの感染性を調査することにより、細胞上のNeu5Gc発現によるNeu5Gc結合性ウイルスの感染性の低下が他の細胞株でも再現するのかを確認する。 Neu5Gcの生物学的機能はほとんど分かっていない。Neu5Gc結合性ウイルスの感染性を低下させる機構を解明することにより、Neu5Gcの機能自体も明らかになることが期待される。ウイルス感染初期過程(ウイルスの細胞表面への結合、細胞侵入など)の面から、Neu5Gcが示すウイルス感染性の低下作用を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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