研究課題
申請者が樹立したキメラHCV持続感染培養肝細胞は、樹立後も500日以上キメラHCVの感染を維持した。その間、溶解感染時とほぼ同等の感染性ウイスルを培養上清中に放出し続けた。持続感染培養肝細胞では全長のキメラHCV RNAゲノムが維持さてており、HCV蛋白質の産生も認められた。産生されたHCVを密度勾配法で分離すると、ウイルス粒子自体の分画よりも軽い分画に感染性ウイルスの分画が認められ、溶解感染によって産生されるウイルスと同様に、VLDLなどの脂質成分との会合が示唆された。 一方、産生されたウイルスは細胞溶解をきたすこと、および、その治癒細胞にキメラHCVを再接種させると再持続感染が成立することから持続感染細胞自体に生じた変化が持続感染に必要であると考えられた。実際マイクロアレイ解析により、溶解感染細胞と持続感染培養肝細胞との間に著しい遺伝子発現の相違を認めた。 また、持続感染培養肝細胞には臨床的な持続感染と同様に著明な脂肪滴の蓄積が認められ、その原因の解明のためにメタボローム解析を行った。LC-TOFMS解析の結果、持続感染培養肝細胞では中長鎖の脂肪酸をはじめ各種脂質成分の含有量が多く脂肪滴の蓄積を裏付けるものと考えられた。また、CE-TOFMS解析の結果、持続感染培養肝細胞ではアミノ酸の取り込みが増加、および、細胞内での代謝亢進の結果、過剰なエネルギーの蓄積として脂肪滴が増加している可能性が示唆された。
3: やや遅れている
東北震災後の実験停止や節電のための実験時間短縮のため、実験の変更や培養の中断などを余儀なくされ予定した計画より遅れが生じた。また、持続感染の成立およびその後の培養実験には月単位の継続培養が必要なため、個々の実験およびその再現実験を行う際に多くに時間を要した。さらに、マイクロアレイ解析で予想以上の遺伝子変異が明らかとなりその確認に時間を要している。
これまでの研究の結果、感染性ウイルス粒子の密度は非感染性粒子より低いことが明らかとなった。今後、無血清培地中の急性感染ウイルスおよび持続感染ウイルスを密度勾配法により分離し、ウイルス蛋白質、ウイルスRNAに加えVLDLなどの脂質成分などのより詳細な定量的分析を行ない、急性期の溶解感染との共通点と相違を明らかにする。さらにクライオ電顕によりウイルス粒子の構造を明らかにする。一方、メタボローム解析で明らかになった持続感染細胞における代謝異常経路を焦点に、生化学的にも確認実験を行う。また、マイクロアレイ解析のデータも同時に得られているので、GSEAなどのデータベースを用いパスウェイ解析を行うことによってその代謝異常の原因遺伝子を絞り込み、ノックアウトまたはノックダウンの実験によって分子生物学的に確認を行う。これらによって、持続感染に必要な分子機構を明らかにし、肝発がん遺伝子、慢性炎症発癌の原因となる遺伝子を明らかにする。また、キメラHCV持続感染培養肝細胞をサイクロスポリンで処理して作製した治癒細胞に他のHCV感染株を感染させて様々な持続感染細胞を樹立し、新たな抗HCV薬のスクリーニング系として利用を行う。
樹立された持続感染細胞をサイクロスポリン処理することでHCVを排除しその持続感染細胞を確立したが、さらに、様々なHCV株を感染させた再持続感染細胞を新たな抗HCV薬のスクリーニング系として利用し、今後、出現すると予想される多剤耐性HCV株に対するスクリーニング系開発に研究費を使用する予定である。また、持続感染を成立させているドライバー遺伝子を明らかにし、肝発癌との因果関係を解明するための分子生物学的研究に研究費を要する。さらにクライオ電顕、透過電顕などによりウイルスの組み立て、出芽など細胞内のウイルス形成、放出を画像的に明らかにする。
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