研究課題
キメラC型肝炎ウイルスの持続感染培養肝細胞株における著明な脂肪滴増加を実際に脂質分析によって分析したところ、遊離コレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリドの増加が確認され、脂肪滴の増加を裏付けることができた。LC-TOFMS解析の結果、持続感染細胞においてはコレステロールのみならずコレステロールの前駆体レベル(デスモステロール)での増加が認められた。また、CE-TOFMSによるメタボローム解析の結果、HCV持続感染細胞においてペントースリン酸経路の亢進が確認された。すなわちペントースリン酸経路の亢進により脂肪合成のための還元的生合成の亢進が示唆された。また、TCAサイクルおよびこれから派生するアラニン・アスパラギン系も亢進しており、全体的な過剰なエネルギー産生の結果脂肪滴の蓄積がおき、これらの代謝異常がHCVによる肝発がんの一因となっていることが示唆された。また、VLDL産生・分泌に関わるDGAT1の発現低下等が見られ、肝細胞内トリグリセリドが増加し、脂肪滴が蓄積される可能性が示唆された。また、CYP1AやFOS遺伝子などの酸化ストレス系、一部の脂質合成系の亢進が持続感染細胞で特異的に認められ、持続感染細胞における発がん性亢進の原因の一つである可能性が示唆された。以上より、HCVの持続感染により肝細胞はトリプトファン経路、TCAサイクル、アラニン・アスパラギン系などの代謝経路を亢進させ、過剰なエネルギーを脂肪滴の形で蓄積していると考えられた。特に、脂肪酸やコレステロールの還元的生合成のために、ペントースリン酸経路が積極的に利用されている可能性が示唆された。
3: やや遅れている
マイクロアレイの大きなデータとメタボローム解析で得られたデータを統合する際に非常に時間を要した。
マイクロアレイで得られた膨大な情報とLC-TOFMSおよびCE-TOFMSで得られたメタボローム解析とを統合的に分析し、また、遺伝子発現を蛋白レベルで確認するためにかなりの時間を要した。また、変化のみられた代謝系を実際に生化学的に分析、確認するのに時間を要したため、予定よりも研究達成が遅れている。また、遺伝子レベルでの変異を明らかにするために細胞ゲノムのシークエンスを確認する。
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。上記研究における代謝産物の増減をみるために代謝産物測定用試薬を購入、使用する。また、重要な遺伝子発現を転写レベルで確認するための定量PCR用試薬を購入、使用する。また、シグナル伝達経路を明らかにするためにシグナル伝達蛋白に対する抗体、ウエスタンブロット試薬を購入する。また、持続感染培養細胞の維持と増殖のために、各種細胞培養試薬を、分子生物学的解析のためにPCR関連製品と遺伝子クローニング試薬を購入使用する予定である。
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