研究課題/領域番号 |
23590553
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
黒川 真奈絵 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (90301598)
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研究分担者 |
奥瀬 千晃 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (00318940)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | C型肝炎 / IFNα/RBV療法 / 治療効果予測 / バイオマーカー / ペプチドミクス |
研究概要 |
難治性C型慢性肝炎の標準治療であるペグインターフェロンアルファ/リバビリン(PEG-IFNα/RBV)併用療法の効果予測に有用な新規血液バイオマーカーの確立を目的とし、患者血清中の小蛋白質(ペプチド)の網羅的解析を行った。高ウイルス量(100kIU/mL以上)のC型肝炎ウイルス1b型感染患者23例において、PEG-IFNα/RBV療法によりウイルス学的著効 (SVR)を得た15例、及びウイルス学的無効(NVR)であった8例の治療前血清より限外ろ過にてウイルス粒子を除去し、弱陽イオン交換体を搭載した磁気ビーズを用いペプチドを抽出した。この血清ペプチドを、マトリックス支援レーザー脱離イオン化‐飛行時間型質量分析器(MALDI-TOF/MS)で、網羅的に検出し個別定量した。結果、全107個の血清ペプチドを検出した。SVRとNVRでイオン強度に有意差を認めるペプチドを7個検出した (p<0.05)。それらは全てSVRでNVRより高いイオン強度を示し、免疫及び凝固に関わる蛋白質の断片であった。全107ペプチドのイオン強度を用いSVRとNVRの判別モデルを直交部分最小二乗-判別分析にて作製すると、全例を完全に判別できた(R2, 0.986; Q2, 0.541; AUROC, 1.00)。この107ペプチドモデルにおいて、モデル作製に比較的高い貢献を示した68個のペプチド(VIP>0.340)を用い再度判別モデルを作製すると、やはり全例を完全に判別できた(R2, 0.986; Q2, 0.541; AUROC, 1.00)。有意差を示した7個中1個のペプチド(68ペプチドモデルに含まれる)では、SVR とNVRを完全に判別しなかったがAUROCは0.73であり、感度53%、特異度および陽性適中率は100%を示した。1個の血清ペプチドで一部のSVRを正確に予測可能なモデルを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
複数の血清ペプチドを用いた多変量解析によりSVRとNVRの判別モデルを2つ作製し、両者ともAUROC 1.00に達している。SVRとNVRを完全に判別できるため、有用性が高いことが期待される。また1個のペプチドでAUROC 0.73を示すモデルを作製しており、その特異度および陽性適中率は100%と最高値を示している。この1ペプチドモデルでSVRと予測された症例は間違いなくSVRであり、その有用性は非常に高い。本年度は判別モデルの作製までが目標であったが、既にこの1ペプチドモデルのペプチドを含め、SVRとNVR の判別に有用なペプチド10個についてアミノ酸配列を同定しており、予定より早く進行している。1ペプチドのみの測定であればELISAなど単一測定系の開発が可能であり、この予備的な検討を開始している。また、数個のペプチドの組み合わせにより、さらに予測効率の高いモデルが作製可能か、同定されたペプチドを組み合わせて試みている。さらに、これらのモデルについて、C型慢性肝炎患者がPEG-IFNα/RBV療法を開始される前に必ず行われるような臨床検査項目と組み合わせて、より感度や正確性が高いモデルが作製できないか、検討を行っている。現在PEG-IFNα/RBV療法の効果予測として、患者のIL-28B遺伝子多型の解析が行われるようになってきたが、染色体DNAの抽出後にreal time PCRを行うため、一般には操作が難しい。また、一検査あたりの費用が高い状況である。我々の1ペプチドモデル、または数個のペプチドモデルや、それらを臨床検査項目と組み合わせたモデルが、1部のSVRのみならずSVR及びNVRをより高率に予測することができれば、簡便で安価な予測が可能となる。遺伝子に規定されないPEG-IFNα/RBV療法の効果に関与する因子を発見しており、治療機序を考える上でも意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
107ペプチド、68ペプチド、1ペプチドの各モデルに加え、数個のペプチドモデルで予測効率の高いものが作製されればそれも含めて、モデル作製に用いた集団(training set)とは異なる患者集団(testing set)を用いて、モデルの評価(validation)を行う。既に測定可能なSVR及びNVRの血清として、各々51例及び17例を予備的に測定し確認している。このtesting setにおいて、各モデルがどの程度のAUROC, 感度、特異度、陽性適中率を示すか、特に1ペプチドモデルがどの程度の予測能を示すかを、慎重に評価する。またこれらのモデルに治療前の臨床検査項目の結果を加え、より予測能の高いモデルが作製できないかを検討する。 この患者集団の中には、遺伝子検査に同意し、IL-28B遺伝子多型を測定した患者、または測定予定の患者が含まれるため、これらの患者のIL-28B遺伝子多型を検討し、我々が作製した血清ペプチドモデルとの予測能の比較を行う。IL-28B遺伝子多型予測能は100%は満たさないが、我々の複数個ペプチドによるモデルもtesting setでの評価によっては、100%の予測能を示さない可能性がある。その場合、IL-28B遺伝子多型解析と血清ペプチドモデルを組み合わせることによって、100%に近い予測能を得られる可能性がある。また、1ペプチドモデルのペプチド等、PEG-IFNα/RBV療法の効果に重要な影響を与え得るペプチドについて、肝細胞または末梢血単核球をペプチドの存在下・非存在下で培養し、mRNAおよび蛋白質の発現差異をreal time PCRやproteomicsにて解析する。当該ペプチドの本療法における薬理学的意義について検証実験を行い、ペプチドの補充・阻害による治療効果増強・副作用減弱、関連分子中の新規標的分子を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
各血清ペプチドモデルの評価のため、testing setの患者集団における血清ペプチドの網羅的解析を行う。血清からウイルス粒子を除去するための限外ろ過用フィルター付チューブ、および通常のチップ、マイクロチューブが必要である。弱陽イオン交換体搭載磁気ビーズ、専用の8連チューブ及びチップを購入し、その後のペプチド抽出を行う。抽出された血清ペプチドはMALDI-TOF/MSで測定されるため、MALDI-TOF/MS測定用の試薬(アセトニトリル、エタノール等)を購入する。治療効果予測に重要なペプチドを同定する際、分子量が大きい場合は液相クロマトグラフィー質量分析器を用いるため、その測定用試薬も必要となる。IL-28B遺伝子多型解析については、昨年度に染色体DNA抽出キットおよびIL-28B遺伝子多型解析キットを購入済みであるが、測定対象患者の人数が増えれば追加購入する。また、PEG-IFNα/RBV療法の効果に重要な影響を与えると考えたペプチドについて機能解析実験を行うため、当該ペプチドを化学合成し、その対照となる無作為再配列ペプチドも合成する。培養肝細胞としてHep-G2細胞株及びその培養液、仔牛血清等を購入する。ペプチドを細胞に添加した際に生じるmRNAの変化を見るためのreal time PCR用試薬(PCR用premix、プライマー・プローブセット、プラスチックプレート、フィルター付チップ等)、蛋白質の発現変化を網羅的に解析するためのproteomics用試薬(CyeDyes、ゲルストリップ等)を購入する。なお、研究結果を公表し国内外から広く意見を募るため、国内外の関連学会へ参加する費用が必要である(旅費等)。また、PEG-IFNα/RBV療法の治療効果予測に直接関わる部分のみで一旦論文をまとめる場合は、その英文校正費用及び投稿に関する費用等が必要となる。
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