研究課題/領域番号 |
23590554
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
永田 典代 国立感染症研究所, 感染病理部, 室長 (30270648)
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研究分担者 |
清水 博之 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 室長 (90270644)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 病原性 / 動物モデル |
研究概要 |
2007年に報告されたヒト由来の新規のCardiovirus(1981年、発熱した新生児の便から分離)はSaffold virus (SAFV)と命名された。その後、各国で下痢症、咽頭炎、あるいは髄膜炎患者からウイルスが分離されたが、未だに病原性ははっきりしていない。本年度は、SAFV臨床分離株の細胞、動物における感受性の検討と検出・評価系の構築を行うために、日本で分離された髄膜炎患者由来株を用いて検討を行った。具体的には、ウイルス感染価・中和抗体価測定法、ウイルスゲノム検出・定量法および免疫組織化学染色法を確立した。さらに、ウイルス感染乳飲みマウスと成マウスを用いてパラフィン切片参照標本を作製すると同時に病原性を評価した。その結果、乳飲みマウスに脳内接種すると小脳性の運動失調を特徴とした臨床所見が一過性にみられ、その後、回復することを確認した。また、脳(特に小脳)のウイルス抗原陽性細胞を同定した。一方、成マウスでは腹腔内、静脈内、および脳内接種後に中和抗体価の上昇が確認され、感染の成立が示唆された。腹腔内接種群では膵にウイルス抗原陽性細胞が検出された。しかしながら、経口接種では中和抗体価の上昇がみられず、感染不成立と推察した。最近、小児突然死例と小脳炎による運動失調発症患児の髄液等からのSAFV分離が報告された(Emerg Infect Dis 2012)ことから、本ウイルスの神経病原性の解明は重要である。現在、乳飲みマウスを用いた小脳運動失調モデルの作製準備を行っているところである。また、成マウスにおける膵に対する病原性についても解析を進める予定で、この系についてはin vivo イメージングを用いた新しい病原性評価方法が有用と考え、基礎検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新規ピコルナウイルスのヒトにおける感染機構と病原性発現機構を明らかにするために、動物モデルを用いた評価系を確立することを目標としている。本年度は、SAFV臨床分離株の細胞、動物における感受性の検討と検出・評価系の構築を行うために、日本で分離された髄膜炎患者由来株を用いて検討を行った。本年度、目標としていた研究計画については7割程度達成できた。感染実験では、最初に使用したウイルス液にマイコプラズマの混入があったことが判明し、ウイルスの病原性検索結果に疑問が生じたためマイコプラズマの除去を行い、再実験を必要とし、時間を費やしたが、その間にウイルス感染価・中和抗体価測定法、ウイルスゲノム検出・定量法および免疫組織化学染色法を確立することができたので評価系については基本的なものが準備できた。さらに、ウイルス感染乳飲みマウスと成マウスを用いてパラフィン切片参照標本を作製すると同時に病原性を評価することができた。病態モデル系の作出のためのマウス馴化株の作出には及ばなかったが、今後は順次計画通りに進めることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね、計画通りに順調に研究を推進することが出来ているので実施計画通りに研究を進める予定である。具体的には、引き続きSAFVの細胞および動物における感受性の検討と検出、評価系の確立を行う。同時にSAFV感染動物による疾患モデル系の作出を行う。これまでの結果に基づき、乳飲みマウスを用いた小脳性運動失調モデル、成マウスを用いた劇症型糖尿病モデルが候補として考えられる。これまでに、心筋に対する病原性を示唆する所見は得られていない。細胞による分離が困難なウイルスであるが、上気道炎患者由来株を一株分与される予定なので、株による病原性比較がマウスで可能かどうかを検討する。マウス感染実験結果に基づいてヒト培養細胞を用いた病原性確認実験後、サル感染実験を検討予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き、動物実験および培養細胞実験にかかる消耗品、動物、試薬に予算を使用する。特に後半はサルの購入を予定しており、動物にかかる予算は全体に占める割合が大きい。また、次年度は円滑な研究の遂行のために動物実験等の技術提供を依頼する可能性があるので旅費・その他の一部を謝金に変更する予定である。
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