研究課題
本研究は、2007年に新規同定されたSaffold virus (SAFV, 1981年の発熱患児の便由来)の病原性の解明を目的としている。SAFVは主に小児の下痢症や咽頭炎に関連すると考えられているが、急性弛緩性麻痺、髄膜炎、小児突然死例、小脳炎患児からの検出の報告もあり、神経病原性を有する可能性が示唆されている。昨年度は、日本で分離された髄膜炎患者由来のSAFV(JPN08-404株)を用いてマウスにおけるSAFVの感受性を検討し、脳内接種後の新生仔マウスにおいて接種7日目に一過性の小脳性の運動失調を発症することを見出した。そこで本年度は、SFAVの神経病原性に着眼し、新生仔マウス脳内における感染細胞と小脳性運動失調発症の機序について検討した。接種3日、5日目の新生仔マウスの小脳組織においてウイルスゲノム陽性細胞および、抗原陽性細胞を検出した。これらのウイルス感染細胞は、抗GLAST、GFAPおよびMusashi抗体陽性のバーグマングリア細胞であることが判明した。また、接種21日目の小脳組織では、小脳プルキンエ細胞の脱落と、プルキンエ細胞が発現するDelta/Notch-like EGF-related Receptor(DNER)のmRNA量の減少が観察された。以上の結果から、SAFV脳内接種後の新生仔マウスの小脳性運動失調は、ウイルスがバーグマングリア細胞に感染し、プルキンエ細胞の機能が低下することに起因すると推察した。一過性の小脳性運動障害を示した小脳炎患児の髄液からSAFVが検出されたとの報告があり、本研究で得られた知見はSAFVの神経病原性を解明する上で重要な知見である。さらに、本年度は新生仔マウス脳継代による馴化株の作製を行い、その病原性を評価し馴化を確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、新規ピコルナウイルスのヒトにおける感染機構と病原性発現機構を明らかにするために、動物モデルを用いた評価系を確立することを目標としている。昨年度はウイルス検出の評価系を確立し、本年度は新生仔マウスにおける神経病原性を検討し、一方で新生仔マウス脳継代によるマウス馴化株の作出を試みた。実験の進捗に若干の遅れはあるものの、全体的には概ね順調に進展していると判断した。
概ね計画通りに順調に研究を推進することが出来ているので、引き続き、実施計画通りに研究をすすめる予定である。当初は神経系、心、膵臓における病原性について検討を進める予定であったが、現在のところ、特に感受性が高いと判断された神経系における病原性の解析が中心となっている。マウスの結果に基づき、最終年度はサルにおける病原性について特に神経系を中心に検討する予定である。
引き続き、動物実験及び培養細胞実験にかかる消耗品、動物、試薬に予算を使用する。サルの購入は最終年度にずれ込んだため、動物にかかる予算は全体に占める割合が大きい。また、成果発表のための英文校正、投稿料に使用する予定である。
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