研究概要 |
リバースジェネティックスシステムを用い、HuNoVの複製機構と病原性発現機構について研究する。本システムは、HuNoVのポリプロテイン翻訳から粒子形成に至る全ての行程を細胞内で再現できる。本研究では、HuNoVの病原性発現機構、抗ウイルス薬開発の基盤となるウイルス蛋白質の細胞内動態、機能解明を目指している。 (1)HuNoV蛋白質のウイルス複製における細胞内局在と機能の研究 HuNoVのゲノムにはORF1, 2, 3が存在する。ORF1は6-7種類の非構造蛋白質コードされている。ORF2, 3には構造蛋白質VP1, VP2がコードされている。昨年、GFPなどの蛍光タンパク質で非構造タンパク質をラベルするためには、プロテアーゼ認識配列の前後の4~6アミノ酸モチーフを導入する必要があることを明らかにした。本年度は、NTPaseと3A-like proteinの間にGFPを挿入し、3A-like proteinをラベルすることに成功した。 (2)NoVにコードされるウイルス蛋白質の発現と細胞への影響の研究 3A-like proteinを単独で発現させると、細胞の小胞輸送システムに強いダメージを与え、細胞内タンパク質輸送がERとゴルジの間でスタックすること、アポトーシスが誘導されることを見いだした。また、N-terminal proteinは、小胞体と共局在することを明らかにした。 (3)MuNoV, FCVの非感受性細胞であるHEK293TにpKS-MuNoV, pKS-FCVをトランスフェクションすることで、感染性ウイルスを産生させることに成功した。pKS-MuNoVのVPgにMet残基を導入し、感染性MetミュータントMuNoVを作出した。HEK293Tから産生された感染性MuNoV, FCVは、それぞれの感受性細胞で5代継代後も、クローンと同一の配列を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
蛍光物質(GFP)をウイルスゲノムに導入した場合、GFPの直前、後のウイルスプロテアーゼによる切断が起こらないことがある。この場合、ウイルスの複製行程に何らかの障害が生じ、ウイルスの細胞内動態のリアルタイムイメージングが難しくなる。この現象は、切断点前後4アミノ酸以上の配列を導入すると改善されることもあるが、改善されない場合もある。導入部位によっては、GFP等の外来性タンパク質導入が困難であることが明らかになった。HuNoVゲノムにおける外来性タンパク質の挿入可能なサイトのスキャンを行ったところ、3A-like protein, VP2に10アミノ酸程度の挿入が可能サイトがあることが明らかになった。His-Tag, Tetracystain-Tagの導入を試みたが、いずれも感染性粒子の放出はできなかった。難航するHuNoVを離れ、サロゲートウイルスであるMuNoV, FCVのリバースジェネティックスシステムの構築に成功した。特にMuNoVでは、VPgにメチオニン残基を導入したミュータントクローンから感染性MetミュータントMuNoVの作出に成功した。この過程で、感染性粒子作出にリーサルなアミノ酸座位も発見した。このようなサロゲートウイルスクローンと、感受性細胞におけるウイルス感染増殖の比較検討から、本研究課題の研究目標の実現に迫ることができる。最終年度は、MuNoVへの変異導入、MuNoVとHuNoVのキメラウイルスの作出により、HuNoVの各種タンパク質の機能と病原性の解析を推進する。
|
今後の研究の推進方策 |
HuNoVのサロゲートウイルスであるMuNoV, FCVを用いたHuNoVとの比較検討を先行させる事とした。FCVに比べ、よりHuNoVに近縁なMuNoVのリバースジェネティックスシステムと、RAW細胞を用いた感染増殖システムを用い、各種タンパク質の細胞内動態を免疫蛍光抗体法によって観察し、HuNoVのそれと比較検討することで改善を図る。また、昨年度より、HuNoVとMuNoVの外来性遺伝子の挿入可能部位の検索、変異導入の可能性を探った結果、幾つかの候補領域、座位が決定された。逆に、感染性粒子作出にリーサルな領域、座位も特定されつつある。特に、サロゲートウイルスにおける変異導入は、実際の感染性ウイルスの細胞内動態をリバースジェネティックスと比較するために、有用かつ実用性が高く、HuNoVの病原性発現機構解析に利用できる。最終年度は、HuNoVにおいて機能を解析したN-terminal protein, 3A-like proteinへ変異を導入しHuNoVのリバースジェネティックスにおける細胞内動態を調べるとともに、サロゲートウイルスであるMuNoVにも同様の変異を導入して比較検討する。また、すでに作出に成功した感染性MetミュータントMuNoVを用いて、VPgタンパク質の機能と病原性発現機構への関与を調べる。MuNoVのリアルタイムイメージングのため、N-terminal protein, 3A-like proteinにGFPラベルした感染性ミュータントウイルスの作製も試みる。
|