研究課題/領域番号 |
23590563
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西尾 純子 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (40598679)
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キーワード | 腸管粘膜 / 制御性T細胞 / Helios |
研究概要 |
本研究の目的は、腸内細菌の定着により大腸粘膜特異的に出現するHelios陰性のTreg細胞(H-Treg)の、分化と特徴・機能の解明である。 平成23年度には、TCRレパトワ解析のために繁殖させていた、TCRレパトワの多様性が約1/1000に限られた”Limitedマウス(Vb5 Limitedマウス)“が、H-Treg細胞を欠失していたことを発見したため、平成24年度は、H-Tregの分化におけるTCRレパトワ多様性の重要性に焦点を置き解析を行った。Limitedマウスは、T細胞受容体(TCR)β鎖 トランスジェニックマウスであることから、H-Treg細胞の減少が、特定のTCRβ特異的に起きている可能性も考えられたため、同様にTCRレパトワが限られた別のTCRβ鎖 トランスジェニックマウス、”Vb8 Limitedマウス“を作製したところ、Vb5Limitedマウスと同様に、Foxp3+Treg細胞は野生型マウスと同等の頻度で存在するのにもかかわらず、H-Treg細胞は極めて減少しており、大腸炎を発症することが観察された。両者のマウスの腸管粘膜でTh17細胞の増加、TNFα、IL-1βの上昇を呈することから、炎症性腸疾患と類似している炎症であることがわかった。若齢のLimitedマウスに、TCRレパトワの多様性が十分にある野生型マウスのTreg細胞を移入することにより、Limitedマウスの大腸炎は抑制され、腸管粘膜におけるTh17細胞もほぼ正常化し、H-Treg細胞の数も野生型のマウスと同様のレベルまで回復した。以上から、腸管の恒常性の維持には、TCRレパトワの多様性が必須であることが結論付けられた。さらに、そのメカニズムとして、H-Treg細胞の正常な分化が制限されるとが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の計画は、1)TCRレパトワの多様性が限られることにより、腸管粘膜の恒常性は破綻を来たすことを、異なる2種類の”Limitedマウス“で検討すること、2)”Limitedマウス”が自然発症する腸炎について、その経過、病理組織像、粘膜浸潤細胞のFACS解析や炎症性サイトカインのquantative PCRによる解析を行い評価すること、また、3)“Limitedマウス”と野生型マウスのTreg細胞の性質を比較することにより、H-Treg細胞の特性を解析すること、さらに、4)H-Treg細胞の分化に腸内細菌由来抗原が必要か否かを腸管粘膜あるいは腸管膜リンパ節の樹状細胞の提示抗原を解析することにより評価すること、であった。1)については、2種類の異なる“Limitedマウス”を作製・解析することにより、腸管粘膜の恒常性の維持には、TCRレパトワの多様性が必要であることが示された。2)の、腸炎の評価は上述の実験により、Th17細胞による炎症で、TNFαやIL-1βの上昇も見られ、炎症性腸疾患に類似した腸炎であることを証明した。3)Limitedマウスの複雑な遺伝子型ゆえ、マウスの供給が少し遅れているため、Limitedマウスそのものでは、まだ解析ができていないが、すでに、野生型での腸管のTreg細胞の特性の解析を終了しており、あとはマウスが適当な週齢に達するのを待って解析するのみである。4)については現在、腸管膜リンパ節の樹状細胞の提示抗原の抽出のセットアップ中であり、mass spectrometry解析の提携研究者との打ち合わせも近々予定されている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は最終年度であり、研究のまとめの年度となる。 最終段階として、TCRレパトワの多様性が限られることにより、どのようなメカニズムでH-Treg細胞が極めて少ないかを、明らかにさせる。そのため以下のような実験を予定している。 1) H-Treg細胞の分化障害が、Th17による炎症による2次的なものである可能性を否定するため、①Limitedマウスと野生型マウスの混合骨髄キメラマウスを作製し、Th17の炎症がない状況においても、LimitedマウスのH-Treg細胞の分化に障害があるか、②Th17細胞分化障害のある、IL12p40欠損Limitedマウスにおいて、H-Treg細胞の分化に障害があるかを確認することにより、H-Treg細胞の分化障害が、Th17細胞による炎症によるものか否かを明らかにする。 2) 粘膜固有層あるいは腸管膜リンパ節の樹状細胞に提示される抗原について、Treg細胞を増殖まは誘導させると考えられているCD103陽性樹状細胞と、それ以外のDCに分けて、それぞれの定時抗原を解析する。これら、ほとんどのものが現在進行中であり、年度半ばには結果を得られる見込みである。 平成25年度後半は、結果をまとめ論文投稿を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
解析用のマウスの維持費、各種解析に必要な試薬の購入が主な使途目的である。
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