研究課題/領域番号 |
23590572
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
魚住 尚紀 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (70313096)
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キーワード | 免疫学 / 炎症 / 自然免疫受容体 |
研究概要 |
昨年度に引き続いて、マウスTLR4, TLR5の構造機能相関をリガンド刺激時のIL-8産生応答を指標に293細胞一過性発現系をもちいて精力的に解析した。その結果、以下のことがらが見いだされた。 マウスTLR4のLPSによる活性化に関して、1.膜貫通部位の延長変位によって影響を受けないこと、2.TIRドメイン内の点変異N682D, E796Pは活性化に影響を与えないこと、3.TIRドメイン内の点変異P712A, D709N変異はLPS用量反応曲線を右方に変異させること、4.TIRドメイン内の点変異R729Y変異は自発的活性可能を保持し、LPS反応性を失うこと、である。 マウスTLR5のフラジェリンによる活性化に関して、上記1,2に対応する点変異体においてTLR4と全く異なる反応が認められた。すなわち、1.膜貫通部位の延長変位によって刺激応答能を失うこと、2.TIRドメイン内の点変異D718N, P834Eも同様に刺激応答能をうしなうこと、である。3,4の項目については、点変異体の作製を進めており、TLR4の場合との相違を調べる手はずを整えている。 また、マウスTLR4/5のキメラ受容体のひとつについて、フラジェリン、LPS両方のリガンドに対して反応を示さなかったものの、自発的受容体活性可能が膜貫通部位長さ依存的に増強するという予期しなかった形質が認められた。マウスTLR4の自発的受容体活性化能は、膜貫通部位長さによらずほぼ一定であった。受容体活性化機序を明らかにする上で、重要な研究材料となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、LRRCTドメイン組換えタンパク質の作製と、それを用いた生化学的解析や細胞生物学的解析が平成24年度での実施計画に加わっていた。293細胞一過性発現系を用いた受容体構造機能相関を解析する実験において、予想外の発見があり、実験の計画を変更して組換えタンパク質の作製を順延することとした。 研究開始時には、マウスTLR5はTLR一般の活性化機構を明らかにするためのモデル分子との位置づけであり、マウスTLR5で見いだされる知見は、基本的にはマウスTLR4にも同様に見いだされると考えていた。しかし、研究実績の概要に記したように、マウスTLR4の変異体は、マウスTLR5のカウンターパートと全く異なる表現型を示すことが明らかになってきている。これは、マウスTLR4とTLR5の活性化機序が決定的に異なることを示唆するものであり、研究の大きな発展を予見させるものである。このため、平成24年度の実験は293細胞を用いた受容体構造機能相関の解析に集中して、研究の発展的な方向性を大きくすることに力を注いだ。 短期的には、研究の進展の遅れと捉えられうる事柄ではあるが、より大きな発見のための変更と私は考えている。計画との対応を第一に考えて、「やや遅れている」の区分を選んであるが、研究全体を考えると大きな遅延とは見なさなくてよいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.293細胞一過性発現系を用いた受容体構造機能相関解析:マウスTLR4やマウスTLR4/5キメラ受容体に関して予想外の発見があり、293細胞を用いた構造機能相関実験をさらに追加しておこなうべき状況が生じている。必要な実験を見極め、マウスTLR4とTLR5の活性化機序の違いを明確にすると同時に、それぞれの活性化機序を明らかにするための実験を進めてゆく。 2.LRRCTドメイン組換えタンパク質を用いた生化学的解析:組換えLRRCTドメインタンパク質は、生化学的結合解析のみならず、細胞レベル、個体レベルでの実験での使用も視野に入れている。LRRCTドメインはホ乳類細胞発現系を用いる計画である。予備的発現実験を行った後、規模を拡大して培養を実施する計画であり、数十マイクログラム相当の精製品を複数種類、取得する計画にしている。野生型タンパク質のみならず、点変異を導入した組換えタンパク質の作出も、必要に応じて、小・中規模で追加することになると想定している。分子間相互作用の生化学的解析は、96穴プラスチックプレートを用いた、ELISAに準じた方法と、表面プラズモン共鳴による解析を実施したいと考えている。 3.LRRCTドメイン組換えタンパク質を用いた細胞生物学、動物実験:組換えLRRCTドメインタンパク質は、細胞膜上に発現したTLR分子と結合し、TLR分子の2量体化を阻害できる可能性がある。細胞やマウスに投与し、TLRシグナルがどのように影響されるかを検討する。まず、培養細胞系や、腹腔マクロファージなど初代培養細胞を用いた細胞レベルでの実験を積み重ねる。その上で、マウスを用いた炎症モデル実験へと進む計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、in virtoでの生化学・分子生物学的実験や細胞生物学的実験を多用して、遂行される。培養細胞に対するトランスフェクション試薬、細胞の反応量を定量するヒトIL-8 ELISA、研究上必要とされる試薬、細胞培養液、プラスチック製消耗品が主たる支出となる状況は、これまでの二年度と同様である。実験条件・手順の工夫を重ね、節約に努める一方で、実験の品質・分量を確保して本研究を計画通りに達成できるようにする。繰越金 81,048円は、一部の消耗品について、輸入手続き等のため年度内納品ができなかったために生じたものである。平成25年4月8日までに納品されており、ほぼ計画通りに消化されている。 組換えタンパク質産生においては、予備的な小・中規模発現実験までは、研究室内で実行予定である。動物への投与実験にも使用可能な、高純度組換えタンパク質の調製に当たっては、機械設備導入が不必要な範囲で収量の確保が可能であれば、自前で実行するが、それが困難であると判断される場合には、外部委託生産も検討する。組み換えタンパク質を利用した動物実験も、準備でき次第、実行する。 国内、海外での学会における発表を、情報発信と第一線情報を収集する目的で実施する計画にしている。昨年度は、10月に東京で国際エンドトキシン学会が実施され、発表はしなかったが、情報の収集に努めた。本年度は、日本生化学会での発表、海外では、Keystone Symposiumでの発表を計画しており、そのための予算計上を考えている。
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