研究課題
マスト細胞/好塩基球はアレルギー病態に関与している免疫担当細胞である。マスト細胞/好塩基球は外来刺激をうけて、ヒスタミンなどのケミカルメディエーターを分泌する。申請者は亜鉛キレーターを用いて微量必須元素の亜鉛が、上述したマスト細胞/好塩基球の機能発現に関与していることを示してきた。本年度は、細胞内分泌顆粒亜鉛を調節する亜鉛トランスポーターZnT2及び、細胞質亜鉛濃度調節に寄与しているメタロチオネインに焦点をあて、それら遺伝子欠損マウスの樹立、及びマスト細胞や好塩基球における役割の解析を行った。蛋白・RNA解析を遂行し、ZnT2ノックアウトマウス(ZnT2-KOマウス)が樹立できたことを確認した。ZnT2-KOマウス由来のマスト細胞では抗原刺激依存的な脱顆粒・サイトカイン産生に異常が観察されなかったが、放出された亜鉛が優位に低下していた。この結果と一致して細胞内分泌顆粒亜鉛を亜鉛蛍光指示薬で調べたところZnT2-KOマスト細胞では蛍光シグナルが観察できなかった。これらの結果よりZnT2はマスト細胞顆粒内亜鉛を調節する重要な亜鉛トランスポーターであることが判明した。さらに、生体内でのZnT2の役割を検討したところ腹膜炎モデル(CLP:腸結紮穿刺法)において、ZnT2-KOマウスはコントロールマウスに比べ生存率が優位に低下していた。以上の結果よりマスト細胞内分泌顆粒亜鉛と腹膜炎発症になんらかの関連性が示唆された。一方、メタロチオネインノックアウトマウス(MT1/2-KOマウス)より培養好塩基球を調整し、抗原刺激依存的なサイトカイン産生を調べたところTh2型IL-4が転写レベルで障害されていることを見出した。また、MT1/2-KOマウスにおいても好塩基球由来のIL-4の産生が減少していた。以上の結果より細胞内亜鉛恒常性維持とアレルギー関連細胞機能発現との密接な関係が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
申請者は亜鉛の恒常性維持とアレルギー反応との関係を調査すべく、亜鉛関連分子とアレルギー関連細胞であるマスト細胞/好塩基球を用いて、解析を開始した。まず、マスト細胞内分泌顆粒亜鉛に関してはその顆粒内亜鉛を調節している亜鉛トランスポーターであるZnT2の同定に成功した。ZnT2-KOマウス由来のマスト細胞はヒスタミン遊離を中心とした脱顆粒や転写依存的なサイトカイン産生には影響を認めず、マスト細胞顆粒内亜鉛のみが減少するユニークな細胞である。このマスト細胞を用いれば、今後、マスト細胞顆粒内亜鉛の役割を調べることが可能である。一方、MT1/2-KOマウス由来の好塩基球に関してはコントロールに比べ、細胞質亜鉛濃度が増加しており、亜鉛恒常性が破綻していることを既に突き止めている。興味深いことに、MT1/2-KOマウス由来の好塩基球においては抗原刺激依存的なIL-4の産生が減少していることを見出しており、今後は、樹立したノックアウトマウス由来の細胞を用いて詳細な分子機序をシグナル伝達レベルでの解析を行うことにより目標を達成できると考えている。以上のことより、初年度において、二種類の亜鉛関連分子とアレルギー関連細胞機能発現の関連を示す結果を得ており、本研究提案の達成度としては、評価に値できるものと考えている。
申請者は亜鉛トランスポーターZnT2がマスト細胞顆粒亜鉛を調節していることを明らかとした。さらに、腹膜炎との関係もノックアウトマウスを用いて示している。今後はマスト細胞顆粒亜鉛がどのようにして、腹膜炎の発症に関与しているのかを明らかとしていく予定である。具体的にはマスト細胞顆粒内に蓄積されているカルボキシペプチダーゼに注目している。CPA3はマスト細胞に発現が特異的なペプチダーゼであり、その分子内に亜鉛結合領域を有している。さらに、このCPA3は強力な血管収縮作用をもつ生理活性物質エンドセリンを分解する。腹膜炎モデルである動物実験により、マウスの生存にエンドセリンが関与していることが示唆されている。そこで、申請者はZnT2-KOマウスではCPA3の活性化が減弱しており、エンドセリンを十分に分解できないために、腹膜炎モデルにおける生存率が低下したのではないかという仮説を立てている。これらを証明するために、ZnT2-KOマウスでのCPA3活性化の測定・エンドセリン量などを測定する予定である。また、ZnT2とCPA3の関係を調べる目的で、CPA3の亜鉛結合部位変異体を作製し、CPA3の活性化を検証することで、マスト細胞顆粒内亜鉛低下によってCPA3の活性化が制御されているかどうか検討する。一方、MT1/2-KOマウス由来好塩基球で観察された抗原刺激依存的なIL-4産生低下に関しては、その分子機序を生化学的な手法を用いて、明らかにしていく。また、MT1/2-KOマウスを用いて生体における好塩基球依存的なアレルギー反応やTh2応答に関しても調べる予定である。
申請者は亜鉛キレーターを用いて微量必須元素の亜鉛が、マスト細胞の機能発現、特に脱顆粒反応に関与していることを示してきた。これらのことより、マスト細胞内の亜鉛恒常性が脱顆粒調節に寄与していることが推測された。そこで、マスト細胞において発現している亜鉛トランスポーターを網羅的に調べて発現している亜鉛トランスポーターのノックアウトマウスを樹立し、脱顆粒に関与している亜鉛トランスポーターの同定を目指す予定である。申請者は既に、ZnT2, 5, 6, 7がマスト細胞において発現していることを確認しており、それぞれのノックアウトマウス作製に着手している。ZnT2及び、ZnT5に関してはノックアウトマウスの樹立に成功しており、ZnT6及び、ZnT7については既にキメラマウスを得ており、順次交配を行うことにより、ノックアウトマウスの樹立を目指す。樹立できた亜鉛トランスポーターノックアウトマウスはマスト細胞の脱顆粒依存的な即時型のアナファイラキシーを誘導することで、その亜鉛トランスポーターが脱顆粒と関係しているか調査する。脱顆粒の機能発現異常が観察された亜鉛トランスポーターに関しては、どのような分子機序で脱顆粒を制御しているのかを生化学的、細胞生物学的、分子生物学的な手法を駆使して、詳細を明らかにしていく予定である。よって次年度の研究費は主として、上述したノックアウトマウス作成・解析に必要な試薬・消耗品の購入に割り当てる。さらにこれらノックアウトマウスの解析に必須な抗体作成や亜鉛トランスポーター遺伝子の構築にも使用する。
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