研究課題/領域番号 |
23590576
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西田 圭吾 独立行政法人理化学研究所, サイトカイン制御研究グループ, 上級研究員 (80360618)
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キーワード | 亜鉛トランスポーター / マスト細胞 / 腹膜炎 / カルボキシペプチダーゼ / エンドセリン |
研究概要 |
マスト細胞はアレルギー・炎症病態に関与している免疫担当細胞である。マスト細胞は外来刺激をうけて、炎症誘発に関わるヒスタミン・プロテアーゼなどのケミカルメディエーターやサイトカインを分泌する。申請者は亜鉛キレーターを用いて微量必須元素の亜鉛が、上述したマスト細胞の機能発現にポジティブに関与していることを示してきた。 本年度は、マスト細胞で高い発現が確認されている亜鉛トランスポーターSlc30a2/ZnT2に焦点をあて、昨年度に樹立したZnT2ノックアウトマウス(ZnT2-KOマウス)を用いて、マスト細胞おける役割の解析を行った。ZnT2-KOマウス由来のマスト細胞では抗原刺激依存的な脱顆粒・サイトカイン産生に機能異常が観察されなかったが、マスト細胞顆粒内亜鉛が優位に低下していた。これらの結果よりZnT2はマスト細胞顆粒内亜鉛を調節する亜鉛トランスポーターであることが判明した。さらに、生体内でのZnT2の役割を検討したところ、腹膜炎モデル(CLP:腸結紮穿刺法)において、ZnT2-KOマウスはコントロールマウスに比べ生存率が優位に低下していた。マウスの腹膜炎モデルでは血管収縮作用をもつエンドセリンが生体内に放出され、大量に分泌されたエンドセリンによって、マウスの死亡率が増加することが知られている。また、生体内ではエンドセリンを分解するカルボキシルペプチダーゼが存在しており、CPA3はマスト細胞に発現が特異的であり、その分子内に亜鉛結合領域を有している。そこで、ZnT2-KOマスト細胞においてCPA3の活性化を検討したところ、優位にCPA3活性化が減弱していることを突き止めた。 以上の結果より、ZnT2-KOマウスではマスト細胞CPA3の活性化が減弱しており、エンドセリンを十分に分解できないために、腹膜炎モデルにおける生存率が減少したのではないかという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は亜鉛の恒常性維持とアレルギー・炎症反応との関係を調査すべく、亜鉛関連分子とアレルギー・炎症関連細胞であるマスト細胞/好塩基球を用いて、解析を遂行している。今年度は、マスト細胞で高い発現を示している亜鉛トランスポーターZnT2に注目し、マスト細胞における役割についての解析を行った。ZnT2はマスト細胞内の顆粒膜に局在が観察され、遺伝子ノックアウトマウスの解析から、顆粒内亜鉛の取り込みを調節している亜鉛トランスポーターであることを初めて示した。また、ZnT2-KOマウス由来のマスト細胞はヒスタミン遊離を中心とした脱顆粒や転写依存的なサイトカイン産生には影響を認めず、マスト細胞顆粒内亜鉛のみが減少するユニークな細胞であることを明らかとした。このマスト細胞を用いて、マスト細胞顆粒内亜鉛の役割を検討したところ、顆粒内に蓄積されているカルボキシルペプチダーゼCPA3の活性化が減少していることを見出した。さらに、ZnT2-KOマウスにおいては腹膜炎誘導における致死率が増化することも観察している。これらの結果はCPA3の活性化変異体導入マウスと同様の表現系を示していることから、ZnT2が顆粒内亜鉛を調節することによって、亜鉛結合蛋白のカルボキシルペプチダーゼの活性化を制御していることが示唆された。 以上のことより、これまで不明であったマスト細胞顆粒亜鉛の生理学的な意義に関して、一連の解析により、明らかにできた点において、本研究提案の達成度として、評価に値できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は亜鉛トランスポーターZnT2遺伝子ノックアウトマウスを用いた解析より、顆粒内亜鉛が減少するユニークなマスト細胞の樹立に成功し、顆粒亜鉛の意義として、亜鉛結合領域を有しているカルボキシルペプチダーゼCPA3の活性化制御を担っていることを明らかとした。これらの知見に加えて、顆粒内亜鉛が減少するZnT2-KOマスト細胞は活性化刺激を施しても、細胞外に亜鉛が放出されないことを見出している。最終年度はマスト細胞におけるZnT2の役割に関して、さらに検討を行うために、マスト細胞から放出された亜鉛の生理学的な意義を明らかにすることを推進していく予定である。既に、いくつかのマスト細胞依存的なアレルギー・炎症モデルにおいて、マスト細胞より、放出された亜鉛が関与する興味深い知見を得ており、マスト細胞の活性化に伴って放出される亜鉛の意義について研究を推進していく。 一方、前年度よりMT1/2-KOマウス由来好塩基球で観察された抗原刺激依存的なIL-4産生低下に関しては、その分子機序を生化学的な手法を用いて、明らかにしていく。また、MT1/2-KOマウスを用いて生体における好塩基球依存的なアレルギー反応やTh2応答に関しても調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は当初予定していた解析に必要なコンデショナルノックアウトマウス樹立が少し遅たため、一部の研究費を次年度に持ち越しした。最終年度はマスト細胞から放出される亜鉛の生理学的意義を明らかとするために、樹立に成功しつつあるZnT2-conditional KOマウスを主として、細胞生物学的、分子生物学的な手法を用いた検討を行う。さらに、これらZnT2に加えて、ZnT6やZnT7のノックアウトマウスの解析に必要な試薬・消耗品の購入にも使用する予定である。また、亜鉛関連分子のメタロチオネインノックアウトマウス由来の好塩基球で観察された抗原刺激依存的なIL-4産生低下がどのような分子機序で脱顆粒を制御しているのかを生化学的な手法を駆使し、詳細を明らかにしていく予定である。よって最終年度の研究費は主として、上述したノックアウトマウス解析に必要な試薬・消耗品の購入に割り当てる。また、これまで得られた知見をまとめるために、原著論文に作成に必要な費用も計上する。
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