研究課題
ヘルパーT細胞(Th)は生体に侵入した病原体の種類に応じてTh1、Th2、Th17と呼ばれる異なった機能を持つT細胞サブセットに分化する。転写因子STAT3は、Th17細胞の分化のマスター遺伝子として、ナイーブT細胞からTh17細胞への分化を誘導する。しかしながら、STAT3によるTh17細胞の分化を負に制御する分子メカニズムは、未だ十分には解明されていない。申請者は、これまでの研究により、LIM蛋白ファミリーに属する核内ユビキチンリガーゼであるPDLIM2 (PDZ and LIM domain protein-2)が、LIMドメインを介してSTAT分子のユビキチン化・分解を誘導することにより、STAT4によるTh1細胞分化、および、STAT3によるTh17分化を負に調節することを明らかにした。本申請研究においては、昨年度までの研究で、同じくLIM蛋白ファミリーに属するPDLIM4がSTAT3を介するシグナル伝達を負に制御することを見出した。PDLIM4は核内ではなく細胞質に存在しており、興味深いことに、蛋白脱リン酸化酵素であるPTP-BLをリクルートして、STATの活性化に必須のチロシン残基を脱リン酸化することによりSTATを不活性化した。また、PDLIM4欠損マウス由来のT細胞においては、Th17細胞分化が亢進しており、STAT3のチロシンリン酸化も増強していた。さらに本年度は、PDLIM4遺伝子のLIMドメイン内の一塩基多型が、ヒトの関節リウマチの疾患感受性に関係することを明らかにした。この変異を導入したPDLIM4は、PTPBLとの結合が低下するために、STAT3を脱リン酸化・抑制する活性が傷害されていた。以上の結果はPDLIM4の異常が自己免疫疾患の原因となりうることを示唆しており、本研究成果は自己免疫疾患の新たな治療法の開発につながることが期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
Th17細胞は生体防御に重要な役割を果たしているが、一方では、過剰なTh17細胞の活性化が自己免疫疾患の発症および増悪化に関与することが明らかになっている。このことから、Th17細胞の活性化の負の制御機構の異常が、自己免疫疾患の原因であることが予想されていた。本申請研究では、Th17細胞を負に制御する分子機構を解明するのが主要な目的であり、将来的に、ヒトの自己免疫疾患との関連を解明する予定であったが、本年度は、PDLIM4遺伝子の異常が関節リウマチの原因の1つになり得ることを示唆する知見を得ることができた。
平成25年度は、PDLIM4欠損マウスにおいて、個体レベルでのTh17細胞分化が亢進しているかどうかを解析する。Th17細胞依存性のマウス炎症性疾患モデルとして、Propionibacterium acnesの加熱死菌による炎症性肉芽腫モデル、および、コラーゲン関節炎の実験をすでに行ったが、現時点では、PDLIM4欠損マウスにおいて、有意な所見は得られていない。そこで、次年度は、別のTh17細胞依存性炎症モデルである、EAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)の実験を行い、Th17細胞分化および炎症の病態がPDLIM4欠損マウスで亢進しているかどうかを解析する。さらに、脳脊髄炎を発症した野生型およびPDLIM4欠損マウスから採取したCD4陽性T細胞を用いてマイクロアレイ解析を行うことにより、Th17細胞分化に必須の新たな因子を同定する。さらには、PDLIM4以外のLIM蛋白に関しても、STAT3のシグナルおよびTh17細胞分化を負に制御するかどうかを検討する。
蛋白発現実験試薬一式(トランスフェクション試薬、ゲル、抗体など):65万円細胞培養関連試薬一式(培地、サイトカイン、細胞分離キットなど) :50万円マウスおよび飼料 :15万円解析系試薬等(ELISA、RNA抽出、リアルタイムPCR解析) :30万円マイクロアレイ解析 :30万円平成24年度は、PDLIM4欠損マウスの個体レベルでの解析を行った。当初の計画に従ってTh17細胞依存性のマウス炎症性疾患モデルとしてP.acnesによる炎症性肉芽腫症モデルの実験を行った。しかしながら、これであまりpositiveな結果が得られず、現在は、別のTh17細胞依存性のマウス炎症性疾患モデルである、コラーゲン関節炎、および、実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルの実験を行っている。これに伴い、マイクロアレイ解析などを行う予定に遅れが生じたため当初計画した予算の使用予定とは変更になった。
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Blood
巻: 120 ページ: 4733-4743
10.1182/blood-2012-06-436527