研究課題/領域番号 |
23590594
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
高橋 健太郎 滋賀医科大学, 医学部, 特任教授 (20163256)
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研究分担者 |
越田 繁樹 滋賀医科大学, 医学部, 特任講師 (70372547)
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キーワード | 地域周産期医療システム / 病診連携 / 新生児死亡 / 後期死産 |
研究概要 |
後期死産症例および新生児死亡症例の検討を行った結果、新生児死亡および後期死産症例を回避するための方策は①なにはともあれ周産期医療に携わる医療従事者のマンパワー不足の補充が第一で、産科医師当直体制の見直しおよび新生児科医の連携体制の充実を図ることも大切である。②妊娠中の母体管理の充実に関しては、住民への妊婦検診の重要性の啓発と緊急受診を行うべき適切な所見、時期、方法の啓発運動と超音波検査診断技術向上のトレーニングで胎児異常を早期に診断することや多胎管理・分娩に一定のルールを決める(16週以降は診療所でなくMD双胎は総合・地域周産期母子センターに集約し、DD双胎はそれ以外の複数の医師が勤務している施設に分散させる)などの産科医およびコ・メディカルのスキルアップを徹底させることが重要である。③無理な経腟分娩をしないように分娩時の管理の充実をはかる。④新生児科医およびコ・メディカルのスキルアップを図り、新生児管理の充実を行う。現時点でもっとも早い対策法は新生児蘇生法の普及である。⑤医療連携として他県の医療機関(湖北地域における福井県の診療所および病院の利用および湖北、湖東地域における診療所と岐阜県の病院)との更なる密な連携が必要である。また、緊急帝王切開時の緊急医師派遣システムの構築が急がれる。さらに、今回の調査により滋賀県は既に多胎や早産、異常妊娠、合併症妊娠といったハイリスク妊娠を総合病院で、正常妊娠を診療所で取り扱う機能分担がほぼ適切に行われている。また、ハイリスク分娩は総合周産期センターでほとんどの症例が取り扱われているが、未だ高次医療を要する可能性が高い癒着胎盤や産科DICなどの超ハイリスクの症例を取り扱っている診療所もあり、周産期医療を担う周産期医療スタッフや患者である妊婦の個人一人ひとりの妊娠管理の再教育、再啓発が必要と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「新生児死亡および後期死産症例の回避可能性の検討」の研究を行う上で、どうしても必要であった、新生児死亡および後期死産症例の滋賀県下の施設からの調査票の回収と死亡小票の開示の許可が厚生労働省から得られ、平成24年度から「新生児死亡および後期死産症例の事例検証委員会の開催が可能となり、11回の検討会が開催でき、計画した24年度研究分までほぼ順調に研究が遂行できた。しかし、平成23年度に診療体制の実態調査を行い、資料を得た「滋賀県新生児集中医師派遣システム」の構築については、新生児専任医師が不在の地域周産期医療センターからの必要要請に応じて、滋賀医科大学NICUの新生児専任医師を派遣するシステムを活動させたのみで、今ある新生児専任医師、施設を有効に利用でき、新生児医療レベルの向上とマンパワー不足の解消が可能であったかどうかを検証するには至らなかった。また、「滋賀県民への正しい周産期医療の知識の啓発活動」についても十分な実行ができなかった。この理由として、延期していた平成23年度分の「新生児死亡および後期死産症例の回避可能性の検討」の研究に大部分の時間を割いたことである。
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今後の研究の推進方策 |
研究の遂行が不十分である、「滋賀県新生児集中医師派遣システム」に関して今ある新生児専任医師、施設を有効に利用でき、新生児医療レベルの向上とマンパワー不足の解消が可能であったかどうかを検証し、システムを構築する。また、引き続き新生児および母体の予後不良症例検討会を開催するとともに、検討会で得られたコンセンサスが、その後の医療にどのように生かされているかを検討する。また、このように正確な新しい情報を周産期医療関係者に還元していくことで、今後、滋賀県においても周産期医療レベルの向上、新生児死亡例を減少させることが大いに期待できる。今後、数年に渡るこのシステム構築により得られた情報を集積・解析することにより、診療所と病院との継ぎ目のない滋賀県独自の病診連携システムが期待できる。さらに、引き続き、滋賀県内で発生した新生児死亡および後期死産症例の詳細な調査結果を詳細に後方視的に共通の視点で検証できる事例検証委員会(メンバーは現存する実際の医療現場で中心的に働いている産科医、新生児科医、小児科医からなる滋賀県周産期医療協議会検討部会委員12名)で分析し、新生児死亡および後期死産症例の回避の可能性を検討する。平成19年1月1日~平成23年12月31日までの5年間の資料を解析予定であるが、平成24年度には平成19年~平成22年の約75%の検討が終わったので、平成25年度は残りの症例の検討予定である。 一方、滋賀県では非常に少ない産科医、産科施設と非常に少ないNICU専任医師という限られた医療資源に基づき、周産期医療がかろうじて成り立っていることを滋賀県民に周知させ、医療施設、医師の負担軽減につながり、限られた医療資源の有効利用につながり医療崩壊を食い止めることができる。そのために「県民の産科医療に対する意識改革」を推進さすための啓発講演を積極的に行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は順調に「新生児死亡および後期死産症例の事例検証委員会」が開催でき、平成24年度は持ち越しの平成23年度分と平成24年度分の一部を使用し、研究の遅れがほぼ取り戻せたので、平成25年度の研究費使用は当初の計画通り、平成25年度分と平成24年度の持ち越し分の予定である。
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