研究課題/領域番号 |
23590594
|
研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
高橋 健太郎 滋賀医科大学, 医学部, 特任教授 (20163256)
|
研究分担者 |
越田 繁樹 滋賀医科大学, 医学部, 特任講師 (70372547)
|
キーワード | 地域周産期医療システム / 病診連携 / 新生児死亡 / 後期死産 |
研究概要 |
平成19年から平成22年の滋賀県における後期死産147症例および新生児死亡86症例の検討を行った結果、死産症例や新生児死亡症例を回避するためには、出生後の新生児管理改善のみならず妊娠管理能力の向上、妊娠中の異常を早期の発見する出生前診断技術の向上およびハイリスク症例の母体早期の高次医療機関への紹介等に関する医療機関への提言のみならず、胎動減少自覚時の速やかな受診等の社会への啓発が重要であることが判明した。このように、死亡症例の1/4は何らかの対策を講じることで、死亡を回避できる可能性があり、長期的には周産期医療に携わる医療従事者のマンパワー不足の補充が第一であるのは当然であるが、短期的に産科医師当直体制の見直しおよび新生児科医の連携体制の充実を図ることも大切である。また、最も短期的には周産期医療に携わる医療従事者のスキルアップが最大の対策である。また、出生後の新生児管理改善のみならず出生前診断技術の向上や妊娠中の母体管理の改善、それを踏まえた母児の早期高次機関への紹介など周産期全体としての早急なレベルアップが望まれる。 さらに、妊娠リスクスコア等を利用したリスクに見合った診療体制が周産期を安全に行う上で最も重要であり、これらの点を医療従事者はもとより住民が認識することが重要でそのための、頻回のアナウンスが望まれる。また、滋賀県における産科医療は、一般的な7つの医療圏と異なる独自の設定で4つの医療圏に改編されたが、今後この医療圏での病ー診、病ー病の連携がスムーズに機能することを願うとともに、検証することが必要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度には8回の新生児死亡および後期死産症例の事例検証委員会の開催を行い、計画した25年度研究分までほぼ順調に研究が遂行でき、「新生児死亡および後期死産症例の回避可能性の検討」は平成19年から平成22年までの4年間は解析し、まとめることができた。最後の平成23年の検討もほぼ90%は終了した。 しかし、「滋賀県新生児集中医師派遣システム」の構築については、新生児専任医師が不在の地域周産期医療センターからの必要要請に応じて、滋賀医科大学NICUの新生児専任医師を派遣したのみで十分なシステムは構築できず、新生児医療レベルの向上とマンパワー不足の解消が可能であったかどうかを検証するには至らなかった。県内の多くの病院におけるNICU診療は小児科医師が兼任で行われておりマンパワー不足であるが、若手の小児科医師の多くは大学病院NICUで6か月以上NICU医療のトレーニングを受けており、専任医師に近い知識とスキルを習得するようになった。また出生前に高度のNICU医療が予測される際には、総合周産期センターに母体搬送が行う例が増えている。これら小児科医師のNICU医療技術向上とハイリスク母体症例の集約化により、滋賀県新生児集中医師派遣システムが十分に機能しない現状においても周産期死亡率等の改善がみられるかの検証が必要である。 また、「滋賀県民への正しい周産期医療の知識の啓発活動」についても十分な実行ができなかった。この理由として、「新生児死亡および後期死産症例の回避可能性の検討」の研究に大部分の時間を割いたことである。しかし、「新生児死亡および後期死産症例の事例検証委員会」にて、妊婦の胎動減少や消失に対する医療機関への受診意識が低いことが判明した。これまで死産回避のために胎動測定の重要性について地域の保健師へ講演をおこない、現在妊婦への啓発方法を模索している。
|
今後の研究の推進方策 |
滋賀県新生児集中医師派遣システムを構築することは困難だが、新生児医療レベルの向上とマンパワー不足の解消については、滋賀県の周産期死亡数の推移等をもって検証する。また、引き続き新生児および母体の予後不良症例検討会を開催するとともに、検討会で得られたコンセンサスが、その後の医療にどのように生かされているかを検討する。 また、正確な新しい情報を周産期医療関係者に還元していくことで、今後、滋賀県における周産期医療レベルの向上、新生児死亡例を減少させることが大いに期待できる。今後、数年に渡るこのシステム構築により得られた情報を集積・解析することにより、診療所と病院との継ぎ目のない滋賀県独自の病診連携システムが期待できる。 さらに、引き続き、滋賀県内で発生した新生児死亡および後期死産症例の詳細な調査結果を詳細に後方視的に共通の視点で検証できる事例検証委員会で分析し、新生児死亡および後期死産症例の回避の可能性を検討する。平成19年1月1日~平成23年12月31日までの5年間の資料を解析予定であるが、平成25年度までに平成19年~平成23年の約90%の検討が終わったので、平成26年度は残りの症例の検討とまとめの予定である。 一方、滋賀県では非常に少ない産科医、産科施設と非常に少ないNICU専任医師という限られた医療資源に基づき、周産期医療がかろうじて成り立っていることを滋賀県民に周知させ、医療施設、医師の負担軽減につながり、限られた医療資源の有効利用につながり医療崩壊を食い止めることができる。そのために「県民の産科医療に対する意識改革」を推進さすための啓発講演を積極的に行う。また、死産回避のために胎動測定の重要性について地域の保健師へ講演をおこない、現在妊婦への啓発を行っていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
より効率的に使用するため、今年度の残額(端数)を残した。 今年度の計画に基づき、効率的に使用する。
|