研究課題/領域番号 |
23590595
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
倉田 真由美 滋賀医科大学, 医学部, 客員助教 (50378444)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生体肝移植 / 生体ドナー / 臓器移植 |
研究概要 |
本年度は今日までに蓄積された論考を中心に読み説き,生体肝移植の現行制度における実施上の問題点を整理した.生体肝移植は現在"ドナーの自発性の担保"および"臓器売買の防止"を目的に設けられた適応基準によって,欧米のようにボランティアなどの第三者からの提供を認めていない.このため家族が家族の命を救うために臓器を提供せざるを得ない状況が生み出された.また臓器の授受を家族間に限定したことで生体移植の問題が家族の問題に矮小化され,社会的な議論として広まらずドナーへの支援や補償が遅れるなどの問題を生じている.提供のプロセスにおけるもうひとつの大きな問題は,臓器提供が必ずしも善意・無償の提供ばかりではないとうことである.ドナーとレシピエントとの実質的な人間関係を洞察し,臓器の授受の背後にある提供決断の動機を医療者が知り得ることは極めて難しく,どのように見極め判断するかが大きな課題となっている.この他,臓器提供後の問題にドナーの心理的な問題がある.生体ドナーは治療目的ではないにもかかわらず,健康な体にメスを入れ臓器を摘出しなければならないことに対する不安や犠牲感,被害感などを抱えており,提供後の心理面のアセスメントとケアプログラムの開発が急務である. 以上,今回明らかにした問題を改善するために,ドナー候補者の選出から決断に至るまでの過程における家族間の調整およびドナー候補者の決断あるいは辞退を支える積極的な介入支援のあり方を再考する必要がある.また臓器提供後のフィジカル,メンタルの両面にわたる問題に対し継続的にケアサポートするシステムの構築が急務であり,特に提供後の健康不安や喪失感,家族間調整などを含めた包括的なケアプログラムの開発が急がれる.今後は先述した問題の分析と共に,体系的な生体移植医療システムの構築に向け,わが国における生体ドナーの位置づけについて検討を進めていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体肝移植のドナー問題に関する基礎文献・先行研究の分析を通して改善すべき課題を抽出することができた.現行システムの運用上の問題を整理したことで,検討し改善すべき事項および方向が定まり,今後体系的な生体移植医療システムの構築につながる成果を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
2012年度は日本の臓器移植医療の歴史的背景を踏まえた上で,諸外国における制度との比較検討を通じてわが国の実態に即した生体移植ならびに生体ドナーの位置づけを考察する予定である.最終年までにはグローバルな視点から日本における生体ドナーの位置づけを示し,生体ドナー保護の観点から日本の移植医療の実態に即した体系的な生体移植医療システムを提言としてまとめ医療現場へ還元するまでを目標とする.
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度は生体肝移植を実施している欧仏や英国などの国々や日本と同じように法規制外で生体移植を実施している米国との運用システムの比較検討ならびに諸外国における生体ドナーの社会的評価(位置づけ)の調査,および医療従事者を対象に実践を振り実施上のルールや生体ドナーに対する支援・補償策に関し聞き取り調査の実施(実態調査)・分析に研究費を使用する予定である.
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