医療施設における医療安全対策の目標は、患者にとって有害な事象の発生を抑制することである。有害事象の把握にはカルテを詳細に調査するチャートレビューが有効とされているが、経験と時間を要するため、個々の医療施設ではほとんど行われていない。申請者らは、米国IHIのGlobal Trigger Tool(GTT)をもとに日本版GTTを開発し、わが国の医療現場での実用性を確認してきた。本研究ではこれをベースに、外科手術に特化した新たな手法を開発することを目的とする。 新たに開発した調査用シートを用いて、退院患者の診療録を対象に院内スタッフ(看護師等2名、医師1名)によるレビューを行い、影響度分類3a以上の事象の把握を行った。独立して外部者(先行研究においてチャートレビューを行ってきた研究者)によるレビューを同じカルテに対して行い、その結果をゴールドスタンダードとして比較することにより手法の評価を行った。評価指標として、感度、特異度、陽性的中率、レビューの所用時間を用いた。2012年2月~2013年3月にかけて、二つの医療施設の193症例について調査を行った。指標の算出が可能な症例を対象に指標を算出したところ、感度75%、特異度98.9%、陽性的中率90%、一例あたりの所要時間13.6分(6.3分×2名+突合1分)となり、一般の医療施設での施行が可能と判断された。 医療における有害事象の把握について、世界各地で類似の手法による評価が行われている。今回開発した外科手術用ツールは、各施設の医療安全に関する疫学情報を得るのに優れており、我が国における普及が期待される。
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