研究課題/領域番号 |
23590613
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
小川 俊夫 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (40570974)
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キーワード | 政策研究 / 医療・福祉 / 社会医学 / 救急医療 |
研究概要 |
本研究の目的は、わが国において急速に普及している自動体外式除細動器(AED: Automated External Defibrillator)に着目して、AED関連費用の推計よりAEDの費用負担の実態の把握、AEDの費用対効果の推計、一般市民のAED利用に関する意識調査などを実施し、その結果を踏まえてわが国におけるAEDの社会経済的な意義を検討し、わが国におけるAEDの今後のあり方について考察することである。 研究初年度の平成23年度に実施したAEDの費用対効果の推計手法の検討をもとに、平成24年度は、わが国におけるAEDの費用対効果の推計を実施した。AEDの導入台数については、各都道府県におけるAED導入台数の推計値を用いて、全国及び都道府県別・年次別の導入台数を推計した。AED一台あたり費用は、減価償却と割引率などを加味した上で本体価格と維持費用から推計し、それらを用いてAEDにかかる総費用を推計した。AEDの効果に関しては、院外発生の心肺停止傷病者データベースである「ウツタイン様式統計データ」にて入手可能な脳機能分類(CPC)を質調整生存年(QALY)に変換する手法を用いて、AED実施により得られるQALYを年齢階級別に推計した。さらに、推計したAEDの費用と効果を用いて、増分費用対効果比(incremental cost-effectiveness ratio: ICER)を試算し、諸外国で実施された先行研究との比較分析を行った。 平成24年度の本研究により、既存データを用いてAEDの費用対効果の分析が可能であることが明らかとなった。またその分析結果より、わが国において導入されたAEDは諸外国の先行研究と比較してほぼ同等の費用対効果であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、AEDの社会経済的な意義について検討することを目的とした研究であり、その一環として平成24年度までにAEDの費用対効果分析の分析手法を検討し、実際にAEDの費用対効果を試算した。本研究の成果として、わが国のAEDの費用と効果を、AEDの都道府県別、年度別の販売台数とAED一台あたりの費用、また「ウツタイン様式統計データ」を用いることで推計が可能であることが明らかとなり、実際の推計を実施した。また、諸外国のAEDの費用対効果の分析結果と比較しても、わが国のAEDの費用対効果は諸外国と同等レベルであることが示唆された。 これらの結果より、平成24年度でAEDの費用対効果分析はほぼ完了しており、当初計画の最終年度の一部も達成できたと考えられる。いっぽうで、AEDの利用に関するアンケート調査については最終年度での実施を計画しており、この点はやや遅れ気味である。以上を総合的に評価すると、概ね順調に推移していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
1) AEDの費用対効果分析の精緻化と将来推計:昨年度推計したAEDの費用対効果については、費用および効果の両面から推計のさらなる精緻化を実施し、より現実に即した費用対効果分析を試みる。また、AED関連費用については、将来推計も実施する。 2) AED利用に関する意識調査の分析:AED利用に関するインターネットを用いた意識調査を実施し、その結果を分析する。 3) AEDにかかる財政負担、費用対効果分析、意識調査などからわが国におけるAEDの今後のあり方やわが国および各都道府県におけるAEDの適正導入台数について考察を行い、その結果を政策提言として取りまとめる。さらに、これらの研究成果をとりまとめ、国際学会などにて積極的に発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、費用対効果分析の精緻化とAED関連費用の将来推計、さらにAED利用に関する意識調査を実施する予定である。特に平成25年度にはAED利用に関する意識調査をインターネットを用いて実施する予定であり、その成果を踏まえて、わが国におけるAEDの今後のあり方やわが国および各都道府県におけるAEDの適正導入台数について考察し、その結果を政策提言として取りまとめる予定である。 また平成25年度において、AEDの費用対効果分析の成果を国際医療経済学会(iHEA: International Health Economics Association)総会などの国際学会に参加して発表を行う予定である。
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