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2011 年度 実施状況報告書

多剤耐性アシネトバクターによる院内感染の制御方法の確立

研究課題

研究課題/領域番号 23590614
研究機関自治医科大学

研究代表者

林 俊治  自治医科大学, 医学部, 准教授 (40260765)

研究分担者 吉村 章  自治医科大学, 医学部, 助教 (90448845)
森澤 雄司  自治医科大学, 医学部, 准教授 (70302685)
研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード多剤耐性 / アシネトバクター / 環境汚染 / 選択培地
研究概要

本研究の目的は、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)による院内感染を制御するための方法を確立することである。本菌による感染は治療が非常に困難である。さらに、近年、日本における本菌感染例は増加しており、本菌による院内感染アウトブレイクも複数の医療施設で起きている。したがって、上記の制御方法の確立は医学研究における急務である。 自治医科大学附属病院におけるMDRA院内感染事例を調査した結果、MDRAはヒトからヒトへと伝播していくのではなく、本菌に汚染された物品を介して伝播することが判明した。特に、湿潤と乾燥を繰り返す物品がMDRAに汚染されやすいことも判明した。したがって、本菌に汚染された物品を特定し、それを廃棄もしくは消毒することが、MDRAによる院内感染を制御するうえで最も有効である。しかし、この汚染物品の特定は簡単ではない。 MDRAに汚染された物品の特定を目的に、我々はMDRAのみが選択的に生長する培地を開発した。この培地上でMDRAは良好な生長を示し、明瞭なコロニーを形成した。一方、その他の細菌は、この培地上で生長することができず、コロニーを形成しなかった。したがって、この培地にサンプルを接種し、細菌コロニーが出現すれば、MDRAの存在を簡便に証明することができる。そこで、我々の病院でMDRA感染が連続発生している病棟の環境調査に本培地を用いたところ、この選択培地は汚染箇所の特定にたいへん有用であり、MDRAによる院内感染の制御に大きく貢献した。我々の病院におけるMDRA院内感染制御の成功モデルは、他の医療施設においても有用な方法として期待できる。 また、我々はMDRA臨床分離株を材料として、MDRAに対して有効な新規抗菌物質のスクリーニングを行なっているが、現在のところ有効性を期待できる物質は見つかっていない。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究において、我々は「MDRA選択培地」の開発に成功した。この選択培地はMDRAに汚染された物品を特定するのに大変有用であり、本菌による院内感染を制御するための大きな武器となる。さらに、この選択培地を利用することで、自治医科大学附属病院ではMDRA院内感染の制御に成功しており、この成功モデルを確立できた点において、初年度の研究成果としては、概ね順調に進展していると考えている。 今後は上記の成功モデルの汎用性を検討しなくてはならない。具体的には、他の医療施設のMDRA院内感染の制御においてもこのモデルが有用であるか否かを検討する必要がある。 一方、MDRAに対して有効な新規抗菌物質のスクリーニングに関しては、残念ながら有望な物質の発見に至っていない。しかし、新規抗菌物質の発見という仕事は簡単に成果の出るものではなく、今後も新規物質に対するMDRAの感受性を測定し、その治療薬としての可能性を検討するといった作業を地道に続けていくしかないと考えている。

今後の研究の推進方策

自治医科大学附属病院におけるMDRA院内感染制御の成功モデルの汎用性の検証が、今後の最大の課題である。具体的には、MDRAによる院内感染が起きている他の医療施設において、我々の開発したMDRA選択培地を用いた調査を行い、汚染物品を特定することで本菌による院内感染の制御を行い、その成果を評価する。 しかし、ここで大きな障壁となっているのが、協力医療施設の確保である。医療施設において大きな院内感染事故が起きた場合、それに対してマスコミおよび行政から強い批判を受けるため、院内感染に関する情報を外部に出すことを嫌う医療施設が増えており、これが協力施設の確保を難しくしている。 この状況を解決するためには、情報の管理等に関して施設側とよく話し合った上で、根気よく説得を続けていくのが最善の方法と考えている。 また、定義的には多剤耐性の範疇には入らないが、かなり多くの抗菌薬に耐性を示す準多剤耐性アシネトバクターとでもいうべき菌がいる。協力施設を増やすために、これらの準多剤耐性菌による院内感染が起きている施設も研究対象に含めようと考えている。

次年度の研究費の使用計画

平成23年度における研究費の多くは、自治医科大学附属病院におけるMDRA院内感染の調査に使用した。次年度の研究費は他の医療施設におけるMDRA院内感染の調査に使用する予定である。他病院における調査であっても、必要な経費は原則として我々が負担する。 我々の病院における調査で使用した経費を基に計算すると、1つの病棟を調査するのに必要な経費は20万円程度であり、その多くは「MDRA選択培地」の作製に関わる費用である。さらに、調査対象となる施設が遠隔地にある場合、交通費が必要になってくる。 今後調査すべき施設の数を明確に決めているわけではないが、研究費の許す限り多くの施設で調査を行うことを希望している。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2012 2011 その他

すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] アウトブレイク対策における環境汚染調査2011

    • 著者名/発表者名
      吉村章,笹原鉄平,林俊治
    • 雑誌名

      クリーンテクノロジー

      巻: 21 ページ: 26-29

  • [雑誌論文] 多剤耐性アシネトバクター・バウマニ2011

    • 著者名/発表者名
      林俊治、吉村章、平井義一
    • 雑誌名

      カレントテラピー

      巻: 29 ページ: 276~281

  • [雑誌論文] 多剤耐性アシネトバクターの臨床像と治療のポイント2011

    • 著者名/発表者名
      吉村章、林俊治、平井義一
    • 雑誌名

      感染と抗菌薬

      巻: 14 ページ: 149~154

  • [学会発表] 多剤耐性アシネトバクター・バウマニ検出用選択培地の開発2012

    • 著者名/発表者名
      林俊治、笹原鉄平、平井義一
    • 学会等名
      第85回日本細菌学会総会
    • 発表場所
      長崎ブリックホール(長崎市)
    • 年月日
      2012年3月27~29日
  • [備考] 本研究にて開発した「多剤耐性アシネトバクター選択培地」の特許性の評価を、自治医科大学と提携している特許事務所にお願いしたのですが、特許性は乏しいとの回答でした。

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公開日: 2013-07-10  

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