研究課題/領域番号 |
23590628
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
三宅 眞理 関西医科大学, 医学部, 講師 (50434832)
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研究分担者 |
西山 利正 関西医科大学, 医学部, 教授 (10192254)
田近 亜蘭 関西医科大学, 医学部, 助教 (80368240)
吉村 匡史 関西医科大学, 医学部, 講師 (10351553)
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キーワード | 国際情報交換 / オーストラリア / 高齢者介護 / 介護作業負担軽減 / 身体的負担評価 / 精神的負担評価 / 介護作業分析 / 介護労働マネージメント |
研究概要 |
高齢社会の進行に伴う要介護者の増加と核家族世帯に伴う在宅介護力の低下に対応するため介護施設サービスが利用されている。しかしながら、介護職は重労働とされ定着率が低く介護の担い手が減少する環境にある。この介護労働問題について、本年度は介護軽減プログラムの介入前調査を行った。介護者において、最も身体的負担が大きい介助作業は要介護者をベッドから車椅子へ移乗補助とベッド上でのおむつ替えなどの体位交換といわれている。介護作業を軽減するツールとして、①リフト(機械を用いた移乗作業)②スライディングシート(体位変換時の摩擦を軽減するナイロンシート)を用いた。それぞれの効果を図るために動作分析室においてバイオメカニクス(3次元解析)と筋電図(腰、脚、背中)および心電図を同時に測定した。その結果、介護機器の活用が介護者の身体に与える負担を軽減する事が明らかになった。次に、介護職員に対する腰痛予防対策のチェックリスト(厚生労働省労働基準局)を用いて腰痛のリスク調査を実施した。最もリスクが高い介助動作は体位変換で次に移乗介助であった。移乗動作よりもおむつ換えなどの回数が多く介護者の腰痛リスクを増加させていた。また、介護老人保健施設に勤める職員に対するアンケート調査の結果、腰痛の有訴者は58名(69.9%)であった。リフトの導入を希望する者は38名(45%)で有ったことから、腰痛の有訴者は半数を超えているが、介護機器を用いた腰痛予防の対策の意識は少ない。さらに、介護機器の導入には次の問題があると考えられた。A.介護機器に対する情報不足→B.業務負担増になる否定的なイメージ→C.利用者と家族の理解に要する時間。これらの問題を解決しなければ、施設における介護機器の導入は進捗しない。これらの結果を踏まえて現場で取り入れやすい介護労働軽減プログラムを具体化できるように次年度に追求する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度から身体活動計を用いた介護労働の身体的評価とNIOSH職業ストレスチェックを用いて精神的負担の調査を継続している。これらを日本と豪州の両国で実施し、その比較から介護労働における環境について検討している。24年度には介護労働の身体的負担の評価を行うため、動作分析室において介護職員の動作分析(3次元解析:バイオメカニクス)と筋電図から評価した。①移乗動作における介護経験者と未経験者の比較、②介護労働軽減ツール(体位変換時の摩擦を軽減する以下:スライディングシート)の使用と負担軽減の効果について実験的検証を行うことができた。25年度は移乗機器(以下:リフト)とスライディングシートを施設および在宅介護と新たに大学病院看護師に介護負担軽減ツールとして導入し腰痛軽減のための介入調査を行う。26年度の予定では骨伝導型小型補聴器を用いてICTを活性させる予定である。これまでの豪州と日本の比較研究から明らかになった、日本の介護サービスの問題点は、1.介護サービスにおけるIT利用の遅れ、2.介護サービスの再教育システムの不足、3.介護の身体的負担軽減の法的整備の遅れ「NO LIFT POLICY」(人力による持ち上げ禁止)、4.介護の分業とチーム介護(食事・看護・介護の各スタッフの連携の不足)、5.身体負担を軽減させる介護機器の利用である。3の法的整備については、わが国も2人介助が主流になるなど進展を見せているが、介護労働の軽減にはまだまだ多くの課題が必要である。4年間の研究期間の半分を過ぎたが研究は計画的に予定どおり推進している。残りの2年間では、これらの成果をより多くの人に伝えるために、洗練されたプログラムにする努力が必要である。介護労働における多岐にわたる視点からの研究であるが介護の質の向上と介護労働の軽減を促進するものである。今後も粘り強く取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
介護者が改善を求める介助作業は腰痛など身体に負担がかかる「移乗に関する介護動作」である。しかしながら、身体的負担の軽減として介護機器の活用は積極的ではなく、機器の活用という発想や情報の不足、介護機器に対する否定的なイメージ、利用者や家族への説明、安全確保と倫理審査ができるスタッフの不足がその理由として挙げられる。本来、介護機器の活用は患者身体負担を軽減し、介護の質の向上になるとされているがまだまだ、現場には啓発されていない。本年度の研究では、介護機器などの導入に対して、これらの課題を解決できるプログラムを制作することが目的である。作成した介護軽減プログラムの手順は、A.情報の発信、否定的なイメージの改善→B.業務負担にならないモニター調査と評価システム→C.利用者と家族の理解と介護の質の向上の3つのステージにわたる。まず、Aでは「腰痛の現状とリスク調査」と「介護機器に関するアンケート調査」「介護負担軽減ツールの教育講演」「身体負担のフィードバック」を行う。次に、Bでは介護労働軽減ツールとして移乗機器(リフト)と体位変換時の摩擦を軽減するスライディングシートのモニタリングを行う。使用方法を十分にトレーニングしその後の導入結果から、介護者が介護機器を体感することで患者の安全を守り、褥瘡の悪化、怪我の防止となり介護の質が向上する認識を高める。介護者自身が労働安全対策に強く意識をむけ、労働マネージメント力を高めるプログラムについて推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、身体活動計、睡眠評価計、心拍計、さらに筋肉の負担を測定する筋電図を同時に測定することができる、小型無線身体動作評価機器(BFS:Bluetooth feedback system)の開発を進めている。これはフィールドにおける腰痛の注意信号を発する装置で、これらの実用化に向けての研究を推進する予定である。現在、フィールドでの身体活動量の調査はアクティマーカー(パナソニック社製)を使用しており、睡眠評価も併せて介護労働の評価を継続する。本学の学舎移転が25年度に行われ、幸いにも大学病院に隣接している。したがって、介護現場だけでなく医療の現場においても看護と介護についての調査研究が可能になった。研究フィールドも広がり、医療における介護看護の介助作業の問題についても検討することができる。これまでの介護老人保健施設をはじめ、新たに大学病院に勤務する看護師を対象に介護負担軽減ツールの移乗機器(以リフト)とスライディングシートを導入し、腰痛軽減のための介入調査を行う。さらに大学連携として在宅介護(訪問看護ステーション)の看護師と連携する計画を推進し介護労働軽減プログラムを実践する予定である。26年度の予定では骨伝導型小型補聴器を用いてICTを活性させる予定である。ICTを活性させる予定である。残りの予算は、リフト、スライディングシート、26年度の予定では骨伝導型小型補聴器を購入して現場での使用促進につながる研究を計画している。
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