研究課題/領域番号 |
23590628
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
三宅 眞理 関西医科大学, 医学部, 講師 (50434832)
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研究分担者 |
西山 利正 関西医科大学, 医学部, 教授 (10192254)
田近 亜蘭 関西医科大学, 医学部, 助教 (80368240)
吉村 匡史 関西医科大学, 医学部, 講師 (10351553)
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キーワード | 高齢者介護 / 介護労働環境 / 介護負担軽減 / 介助補助具 / 施設介護 / オーストラリア / フィンランド / 腰痛予防 |
研究概要 |
介護労働者数は約140万人(H23年)であるが、団塊の世代がすべて75歳以上になるH37年には約213~244万人の介護労働者が必要と試算されている。介護人材確保対策として、福祉人材確保指針がこれまでに告示されている。その内容は、①介護環境の整備の推進②キャリアアップの仕組みの構築③福祉・介護サービスの周知・理解④潜在的有資格者の参入の促進⑤多様な人材の参入・参画の5つの具体的な内容を整理している。しかしながら、これらの対策を日常業務に追われる介護労働者本人が推進することは困難である。本研究ではこれらの指針を具体的な介入プログラムに開発し実施することを目的としている。①「介護環境整備の推進」をはかるプログラムの開発のために、車椅子への移乗動作とスライディングシート(介助補助機器)の使用前後のバイオメカニクスと筋電図、心拍数から評価した。その結果、移乗動作の腰部への身体的負担が大きく、スライディングシートを使用すると身体負担の軽減が明らかになった(H23,24年)。次に、リフトとスライディングシートを介護施設と本学附属大学病院に導入した。その結果、介護施設では69.9%の職員が腰痛の有訴者でありリフトの導入を全体の45%が希望していたにもかかわらずリフトの使用状況が停滞した。一方、大学病院慢性期病棟ではリフト導入後、十分に活用していた(H24,25)。この両施設の違いからリフト推進プログラムの問題点を検討している。今年度はリフトを使用するオーストラリアとその使用が少ない日本の介護労働者に対して、労働環境と筋骨格系障害の関連について調査を行った。両国の比較から日本の介護労働者はオーストラリアの介護労働者に比較して給料や環境への満足度が低く、筋骨格筋の痛みを訴える率が高かった。これらのことから日本の介護労働環境に改善と職域の向上プログラムについて検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
介護労働の客観的指標を得るために、新たな身体活動計の開発を試みたが現場での測定が不適切であるため、介入調査には従来の日本P社製:3次元活動量計評価を継続して測定調査を続けている。そして、①NIOSH職業性ストレス調査表に介護労働環境の調査と筋骨格系疾患の痛みの調査を加えた自己評価式を用いた。次に、②介護機器を導入した介入調査を介護老人保健施設と本学付属病院の慢性期疾患病棟で実施した。①オーストラリアと日本の介護環境と腰痛の調査表の回収は、オーストラリア130部、日本の特別養護介護施設から270部の回答を得た。②介護機器(リフト)を導入した介入調査結果。老人保健施設ではリフトの推進が遅滞する傾向にある。リフトの導入は介護職員の希望であったが、リフトを使用する要介護者が限定されることや、介護現場では俊敏さが重視され使用の機会が失われていることが明らかとなった。一方、本学付属病院看護職員に対してリフトの導入と介助補助具としてスライディングシート、体圧保護手袋などを導入した。その結果、看護職員の腰痛に対応できる介護補助具の活用が有効であることが示唆された。現場からのニーズをくみ上げ、新たな器具の紹介や情報を多く発信するシステムが重要である。また、オーストラリアでは介護職員に対する教育が充実しており、自己の健康や安全を守り意識が高い。さらに、オーストラリアに比較して日本は介護職員に対する福利厚生、労働安全衛生、腰痛安全対策が未熟でありその教育や指導の向上が求められる。日本の介護労働の負担軽減について新たな知見を得ることができた。H26年には、オーストラリアだけでなく、福祉先進国であるフィンランドの調査を追加し、介護労働者の世界的状勢と対応策について広い範囲からの検討を重ねる予定である。論文報告にまとめるデータが揃ったことから、本研究の80%が達成していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査から、日本の介護は海外と比較して決して質が劣るものではない。人的な努力や日本人の勤勉さや信頼性、誠実性が介護の質を高めている。すなわち、働く環境は人的支援が最も高く協働している。しかしながら、その物理的環境は整っておらず入浴や移乗動作において肉体的な負担感が強く、精神的な疲労が伴っていることが明らかとなった。一方、オーストラリアでは移乗動作において人力で人を持ち上げることを禁止していこともあり、介護職員は施設の機器の整備、運営方針や教育を利点に上げている。わが国の介護の歴史を踏まえ、介護労働を軽減させるためには海外の手法を取り入れることも必要である。本研究では、海外の政策、介護補助具の活用、科学的かつ合理的なIT、介護システムの導入が介護労働を軽減させると仮定し、介入調査から介護者の身体的・精神的ケアと介護の身体活動量の軽減を定量化する。そして、多くの日本の介護職員の個別の努力を組織のシステムにすることが急務である。介護労働者が年齢を重ねても継続できる環境を作り、経験の長い介護者ゆえに良質な介護サービスを提供する可能性は高く介護労働力に不可欠な資質である。介護労働軽減プログラムの介入は要介護者の安全と介護サービスの質を向上させ、介護の身体的・精神的の軽減に成果をあげることができる。また、介護補助具の利用の推進する介護労働軽減プログラムをより身近に活用できる提案をすることが重要である。日本介護職員の意欲を高めているものは、職員ひとりひとりが「人を思いやる心」を持てる環境にいることである。日本の労働者の福利厚生は世界的な基準であるのか?経済的な発展が人の健康に被害を与えてはならない。介護職員の精神性の高さを介護労働の魅力の一つとして報告する予定である。これらが身体的・精神的な負担の軽減反映さえることになり労働力の確保と継続となるプログラムを開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では携帯型心拍変動測定器CMH(日本社製)を用い介護の身体的負担についての客観的指標を得ることを目標にしていた。測定器で心電図から測定した心電図の波形やR-R間隔のデータをテキスト形式で出力し時系列解析(心拍変動解析)/R-R間隔をヒストグラムやLorentz plots法などの解析によって自律神経のバランスを評価していたが、ワイヤレス化が進んでおらず記録範囲が限られ、介護現場の使用精度が低いため内容を変更した。したがって、介入調査に用いることは身体への負担が大きく実験室内での調査にとどめている。ワイヤレスが導入されしだい、介護現場での使用を行いたい。現在はNIOSH職業性ストレス調査表と自記式質問票を新たに製作し調査をすることに予定を変更した。腰痛などの筋骨格系障害と労働環境と精神的負担、身体的負担の関連について調査を行う。 主観的評価を用いた調査は介護労働の身体的・精神的軽減についての指標となる。本年度はこの指標を用いて、オーストラリアと日本の比較評価からその要因を分析している。特にオーストラリアでは、介助補助具としてリフト、スライディングシート、ITが導入されており、介護者の負担を軽減するプログラムが充実している。わが国においても、新たな器具の紹介や情報を多く発信して、現場のニーズをくみ上げるシステムが重要である。さらに、介護職員に対する教育が充実しており、自己の健康や安全を守る意識が高い。それに対して日本は福利厚生、労働安全衛生、腰痛安全対策が未熟でありその教育や指導の向上が求められる。介護労働の負担軽減について新たな知見を得るために次年度は、福祉の先進国であるフィンランドの調査を加え、介護労働者に介護環境が与える影響について明らかにする予定である。そのための調査費と翻訳の一部に予算を使う予定である。
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