研究課題/領域番号 |
23590633
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
岡本 悦司 国立保健医療科学院, その他部局等, 上席主任研究官 (90247974)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | コホート生命表 / 将来人口推計 / 人口動態統計 / 肝がん / 昭和ヒトケタ / 世代効果 / APC分析 / 非心ベータ分布 |
研究概要 |
本研究の問題意識は,社会保障の基礎である将来推計人口はなぜはずれるのか,にある。その原因は,出生と死亡の2要因のうち人口学は前者ばかりを重視し,後者は数理モデルによる予測にとどまり,傷病別の予防・医療といった介入の効果を評価してこなかったためである。寿命は自然に伸びるものではなく,医療や公衆衛生関係者の努力により「延ばす」ものである。本研究は,医療や予防は寿命を過去にどれだけどのように「延ばして」きたのか,将来はどういう病気でどれだけ「延ばす」のかを明らかにする。目的のひとつである医療費については2011年度より研究利用が解禁されたナショナルデータベースへの申出を予定していたが,データ提供の制限が厳しく初年度は断念し,平均余命への効果測定の基本となる世代生命表作成を人口動態統計を用いてとりくんだ。各歳別死因別の詳細な死亡数は1980年より統計書に記載されない保管表として提供されているため厚生労働省統計情報部において複写し,データ入力した。1980年~2010年までの31年分の死因統計は,1994年以前と1995年以降とで死因分類がICD9とICD10とで異なるため,ICDトランスレーターを用いてICD10に統一し,出生コホート別の死因別平均余命短縮の程度を評価した。その結果,昭和ヒトケタ後半(1930~34年生)男性において肝がん等による余命短縮が大きいことが明らかになった。昭和ヒトケタ男性短命は以前より知られていたが,どの死因がどの世代に強く作用しているかを明らかにした。発表した学会でも原因について質問が集中したが戦後1950年代のヒロポン等覚醒剤の乱用と注射器回し打ちが疑われた。肝がんは次第に撲滅されつつあり,それは中高年男性の寿命をさらに延長することが予想された。2年目は統計法に基づく申請を行い1969年以降の「真」のコホート生命表を作成して精緻化をはかる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医療費を推計するナショナルデータベースの利用は制度上の制約のため叶わなかったが,人口動態統計を活用した死因別コホート生命表は第一段階として1980年以降分を完成させた。 従来作られたコホート生命表は死因別ではなく,今回作成した死因別のコホート生命表は初のものである。死因別コホート生命表により,かねてより指摘されてきた昭和ヒトケタ男性の短命の死因が主に肝疾患,肝がんであることが証明された。またその原因として戦後の薬物乱用による注射器使い回しが原因であることも示唆された。 この結果により肝炎予防と治療の向上で肝がん死亡率は今後急速に改善し,主に中高年男性の平均余命の延長がさらにすすむことが予想され,年金財政にも影響を及ぼす。 しかし今回作成したコホート生命表は死亡時の年齢による区分であって,正確には出生年による「真」のコホート生命表ではない。また各歳別の数値が公表された1980年以降の31年分であり,精緻化のための改善の余地がある。
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今後の研究の推進方策 |
2年目においては,初年度で作成した死因別コホート生命表の拡大・精緻化をはかる。具体的には,初年度で実施した公表された人口動態統計データの入力集計ではなく統計法による目的外使用を申請し,1969年以降の出生年による「真」のコホート生命表を作成する。実現できればわが国初の「真」のコホート生命表となるであろう。 ナショナルデータベースについては3年目にあたる2013年度よりデータ研究利用に関する法的整備もはかられることから3年目以降の課題とし,当面は医療費よりも平均余命延長の死因別分析を中心にすすめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度においては,データ入力の委託費を多数の企業より見積もりをとったところ予想よりはるかに低い額ですんだため,未執行の額が多くなった。実際には可能なら入力作業したいデータは他にもあったのであるが,2年度においては初年度に見送った分をあわせて発注する。また2年度においては統計法に基づく調査票提供を申し出するため,統計法によるセキュリティ要件をみたすためのハードディスク等の十分な記録媒体を購入するために物品費にも相当費やす。旅費は外国は予定していないが公衆衛生学会等の国内学会を複数予定している。
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