研究概要 |
研究期間の中間年にあたる本年度においては前年度からの研究成果を学術誌に多数発表した。 健康保険組合において特定保健指導の医療費への効果を評価した論文が疫学会誌に掲載され,また本論文において確立されたプロペンシティマッチングの方法論を医療経済学会誌において総説として発表した。また前年度において保健医療科学研究会において発表した「肝がん罹患率・死亡率のコホート別ロジスティック曲線あてはめによる将来予測」が国際誌に掲載された他,過去の集団予防接種によるB型肝炎蔓延の程度を数理モデルで推計した成果も国際誌に掲載された。 ナショナルデータベースについては前年度において,その法的性質について検討した総説を刊行したが,今年度ではさらに技術的な問題も明らかになった。特定健診・特定保健指導との予防の医療費への影響を評価するためには,特定健診・保健指導の受診者とレセプトとが個人単位に確実に突合できることが大条件だが,本年度の分析の結果,医療費でみると15.4%,予防の最重要対象である65歳未満男性では10%未満という低率であることが明らかとなり,その成果は疫学誌に掲載した。 このような事実が明らかとなり,データベースの前提として,暗号化された個人IDの精度の評価に取り組む必要がでてきた。ナショナルデータベースの同種ものとして医療給付実態調査という統計法に基づく調査があることから次年度においては医療給付実態調査を統計法に基づいて申請し,個人IDの突合率を正確に評価することに取り組む方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レセプトの電子化が進みデータ蓄積は進んでいるが,特定保健指導等の予防活動が医療費にどう影響しているのか,観察データから因果関係を明らかにすることはRCTとは異なり方法論が十分確立されてはいなかった。しかしこれまでの3年間の取り組みにより,健康保険組合のレベルではあるが,プロペンシティマッチングという方法で因果関係を評価する方法論を確立することができた。STATAというソフトを実際にどのように使用して対照群をマッチングするか,も総説として公表でき,あとはそれを大規模なデータベースに応用するだけ,となった。 ナショナルデータベースについては法律上の制約(統計法ではなく行政機関個人情報保護法が適用されるため)プロペンシティマッチング法は適用できないことが初年度において判明したが,医療給付実態調査や国保データベース等の同等のデータベースも急速に整備されつつあり,方法論が確立されたことから応用の可能性がみえてきた。
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今後の研究の推進方策 |
法的,また技術的に限界があるナショナルデータベースにこだわらず,統計法に基づく同等の調査である医療給付実態調査や国保データベースにプロペンシティマッチング法を用いた特定保健指導の医療費への効果測定を応用する。研究期間の後半に入る次年度においては医療給付実態調査の統計法第32条に基づく申請を行い,2008~12年度の5年間にわたる個人IDの突合精度(同一人をどれだけ追跡できるか)を評価する基礎分析に着手する。
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