研究課題/領域番号 |
23590639
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
向原 徹 神戸大学, 医学部附属病院, 特命准教授 (80435718)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 個別化治療 / キナーゼ阻害薬 |
研究概要 |
平成23年度は、胃癌細胞株における、(1)抗HER2抗体であるtrastuzumab (T-MAB)の化学療法感受性に与える影響、および(2)MET阻害薬に対する獲得耐性、に関して特にPI3K活性化機構の側面から取り組んできた。(1)については、HER2遺伝子増幅胃癌細胞株を用いて、T-MABが種々の化学療法剤の抗腫瘍効果に与える影響を検討した。HER2増幅細胞株のうちNCI-N87とMKN-7はそれぞれT-MABに感受性、耐性であり、前者でのみT-MABとfluorouracil (5FU)との間に相乗効果がみられた。両細胞株における各薬剤暴露下のアポトーシス量、細胞内シグナルの変化を比較検討したところ、NCI-N87でのみ5FUとT-MABを同時併用した場合にアポトーシスの増強が観察され、その誘導にはmTOR-S6Kの抑制が重要であることが示唆された。それと一貫して、mTOR阻害薬のeverolimusと5FUを併用すると両細胞株においてアポトーシスが増強された。興味深いことに、この現象は他のPI3K活性機構(主に受容体型チロシンキナーゼの増幅)を持つ胃癌細胞株では観察されず、HER2増幅細胞に観察される特徴であることが示唆された。(2)に関しては、MET遺伝子増幅胃癌細胞株であるMKN-45からMET阻害薬PHA-665762 (PHA)耐性株(MKN-45-PR)を作成し、その耐性機構の解明に取り組んでいる。現在までに、MKN-45-PRでは、MET遺伝子のexon 19に遺伝子変異があり、そのためにPI3K上のシグナル分子が抑制されないことを見出した。またMET蛋白がMKN-45-PRではMKN-45より有意に増強していることも見出した。興味深いことに、MKN-45-PRではPHA非存在下で存在下よりも増殖が明らかに抑制されており、その分子機構を明らかにすべく研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度はアジア型癌(頭頸部癌、食道扁平上皮癌、胃癌)細胞株におけるPI3K経路の異常活性化に関わる遺伝子異常を、主にdirect sequence法を用いて検索する予定であった。しかし、次世代シーケンサーの登場により、より広範ながん遺伝子検索が世界の主流になりつつある。それに順応するため、本年度予定していた遺伝子検索を翌年度も持ち越すこととした。 また、平成23年度の目標として、共免疫沈降と質量分析を用いたPI3K トリガータンパクを同定するシステムを開発することを挙げていたが、十分な最適化が行われなかった。このプロジェクトを実行する予定であった大学院生が、別プロジェクトに要した時間が予想以上であり、当該研究の開始が遅れたことが原因である、
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今後の研究の推進方策 |
細胞株、臨床組織検体におけるがん遺伝子変異の検索に関しては、Otogenetics社が提供する、次世代シーケンサーを用いた方法に方向転換する。この方法ではPI3K経路のみならず、既知のがん遺伝子の体細胞変異をほぼ網羅的に検索可能であり、より包括的な細胞シグナルの把握が可能となる。獲得耐性モデルの作成に関しては、少なくともMET阻害薬(PHA665752、foretinib)獲得細胞株の樹立に成功しており、平成24年度はプロテオームまたはメタボロームを用いた比較検討に入りたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次世代シーケンサーを用いたがん遺伝子検索(Otogenetics社)の実施に、本年度分研究費の一部を委託費に用いる予定である。また、プロテオームまたはメタボローム解析は当院の質量分析センターを中心に行うが、その使用料として研究費の一部を使用する予定である。その他は、主に細胞培養消耗品、阻害薬、抗体などの消耗品の購入に用いる予定である。
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