研究課題/領域番号 |
23590639
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
向原 徹 神戸大学, 医学部附属病院, 准教授 (80435718)
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キーワード | 個別化治療 / キナーゼ阻害薬 |
研究概要 |
平成24年度は、①MET増幅胃癌細胞株MKN45におけるMET阻害薬(PHA665752とGSK1363089)耐性の解明、および②唾液腺癌におけるゲノムワイドな遺伝子異常探索、に取り組んできた。 ①に関しては、前年度に既に樹立していた、PHA665752獲得耐性株(MKN45-PR)とGSK1363089獲得耐性株(MKN45-GR)を用いた。前年度までに明らかにしたMKN45-PRのMET遺伝子変異(Y1230H)に加え、両耐性株においてMET遺伝子のコピー数の増加があることを明らかにした。興味深いことに両細胞株ともMET阻害薬非存在下では増殖が著しく抑制される、いわば阻害薬へのaddictionが観察された。我々は、その本態がMET阻害薬非存在下の過剰なMETシグナルに起因するreplication stressとその結果として起こるS期細胞周期停止であることを明らかにした。また、MKN45-PRとMKN45-GRをMET阻害薬非存在下で継代しrevertant株を作成すると、両細胞株とも阻害薬に対するaddictionの性質を失うことが分かった。MKN45-GRのrevertant株ではほぼ親株と同様の阻害薬感受性を回復するのに対し、MKN45-PRのrevertant株では、阻害薬に対する高度耐性が保たれた。両細胞株においてMET遺伝子のコピー数も低下するのに対し、MKN45-PRのrevertant株ではY1230Hが保持されることから、MET阻害薬addictionは主にMET遺伝子コピー数に依存することが示唆された。 ②に関しては、比較的稀で分子標的薬が導入されていない唾液腺癌を対象とすることとした。テストケースとして、3例の唾液腺癌腫瘍から抽出したDNAをotogenetics社に依頼し解析を行った。現在その結果の詳細を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究当初はアジア型癌(頭頸部癌、食道扁平上皮癌、胃癌)細胞株におけるPI3K経路の異常活性化に関わる遺伝子異常を、主にdirect sequence法を用いて検索する予定であった。しかし、次世代シーケンサーの登場により、より広範ながん遺伝子検索が癌全体の理解には不可欠であることが明らかになりつつあるため、我々もその方向に転換することとした。コストの面から、すべてのアジア型癌に同様のアプローチをするのは難しく、比較的稀で遺伝子異常の検索もほとんどされていない、非扁平上皮頭頸部癌にフォーカスすることとした。次世代シーケンサーの解析に耐える遺伝子の質を確保すること、委託先海外のラボへの移送・事務手続きに時間を要することから、当初予定したよりもプロジェクト全体としては遅れていると言わざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、唾液腺癌を含む非扁平上皮頭頸部癌のゲノムワイドな遺伝子解析に力を注ぎ、新たな治療標的の同定、それに対する治療開発に取り組みたい。現在我々の研究グループでは、非扁平上皮頭頸部癌を対象に化学療法(cisplatin+docetaxel)の効果を問う臨床試験を行っており、対象患者からは腫瘍サンプルの遺伝子解析に関する同意もえている。目標登録症例数は30例であり、これらの腫瘍サンプルをotogenetics社に依頼し遺伝子解析する予定である。 また獲得耐性に関する研究も引き続き行う予定である。NCI-N87 HER2増幅胃癌細胞株からはtrastuzumabやafatinib耐性株、KATO-III FGFR2増幅胃癌細胞株からはFGFR阻害薬耐性株を樹立している。これらを用いて、従来MET獲得耐性株研究でえられたノウハウを生かしつつそれぞれの獲得耐性機構を明らかにしたい。また、siRNAスクリーニング技術を用いて、未知の獲得耐性機構の同定、さらには耐性克服のための併用療法を提案したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、唾液腺癌のゲノムワイドな遺伝子解析を行うため、otogenetics社への委託費に研究費の一部をあてる。 また、獲得耐性機構に関する研究で用いるsiRNAスクリーニングキットの購入費としても一部支出する予定である。 その他、細胞培養消耗品、抗体などの消耗品の購入に用いる予定である。
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