研究課題/領域番号 |
23590640
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
南 博信 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60450574)
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研究分担者 |
向原 徹 神戸大学, 医学部附属病院, 特命准教授 (80435718)
吉田 優 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00419475)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 臨床薬理学 |
研究概要 |
本研究ではより良い乳がんの薬物療法を開発することを目的として、乳がんに対するkey drugの一つであるパクリタキセルによる治療の効果および副作用と相関するタンパクおよび代謝産物をプロテオームおよびメタボローム解析により探索している。 倫理委員会の承認を受けた臨床研究として術前治療としてパクリタキセルの毎週投与を受けた31名の乳がん患者から、治療前および初回投与後6~8日目の血漿サンプルを得た。パクリタキセルは80 mg/m2を週一回12週連続投与し、引き続きdoxorubicinとcyclophosphamide (AC療法)を3週ごとに4回投与した。パクリタキセル投与中は血液毒性や末梢神経毒性などの副作用を毎週評価し、抗腫瘍効果はパクリタキセル終了後AC療法開始前、およびAC療法後手術前に触診および超音波検査で評価した。また切除標本で病理学的効果を評価した。 本年は初年度であり、まず臨床情報および病理学的情報の収集および整理を行った。収集したデータは、年齢、身長、体重などの基本情報の他に、閉経状態、腫瘍のT因子、N因子、ホルモン受容体、HER2、MIB-1、触診および超音波検査で測定した腫瘍径、抗腫瘍効果の総合判定、末梢神経障害の程度、治療完遂の有無などで、これらの情報を整理しデータクリーニングを行った。さらに凍結保存してある血漿をプロテオーム解析する前に、検体の前処理、データの解析方法などについてプロテオーム解析を実施するメディカル・プロテオスコープ社と協議し合意を得て解析を行った。解析はペプチド混合物試料を液体クロマトグラフィーにて分離しタンデム質量分析にてペプチドイオンの検出・分子量測定を行い、イオン質量スペクトラムからタンパクを同定した。すでにパクリタキセルの投与を開始する前に得た血漿のプロテオーム解析結果を入手し、予備的な統計解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに術前パクリタキセル療法で治療を受けた症例の臨床データの整理を行った。具体的には閉経状態、T因子、N因子、ホルモン受容体、HER2、MIB-1、触診上の腫瘍径およびその変化、超音波検査上の腫瘍径およびその変化、抗腫瘍効果の総合判定、末梢神経障害の程度、治療完遂の有無などの情報を整理しデータのクリーニングを行って矛盾点を解決した。また、保存してある血漿をプロテオーム解析する際に、検体の前処理、データの解析方法などについてプロテオーム解析を依頼するメディカル・プロテオスコープ社と協議し合意を得た後に解析を行った。すでにプロテーム解析結果を入手しており、現在、臨床情報との相関解析など今後の統計解析方法などを行っているところである。予備的ではあるが脂質代謝に関与するタンパクが有効性と相関する可能性を示唆する結果を得ている。以上のようにプロテオーム解析については順調に進行していると考えている。 一方、メタボローム解析はプロテオーム解析の結果を受けて解析を開始した方が効率的と考えて、プロテオームの解析を優先させメタボローム解析は開始せずにいる。しかし、本研究の主体はプロテオーム解析と考えており、その点で本研究は現在のところおおむね順調に進展しているかごくわずかに遅れている程度と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
プロテオーム解析によって得られたペプチドイオンとそのフラグメントイオンの質量スペクトラムからタンパクを同定し、臨床的奏効例と非奏効例、病理学的奏効例と非奏効例、グレード2以上の末梢神経障害発現例と非発現例、など臨床的評価指標により被験者をグループ分けし、グループ間で差がみられるタンパクに着目して解析する。現在までに予備的ではあるが脂質代謝に関与するタンパクが有効性と相関する可能性を示唆する結果を得ているが、今後は候補としてあがっている他のタンパクにも着目してさらに詳細な解析を行う。プロテオーム解析結果の比較定量検討は、メディカル・プロテオスコープ社が開発した解析データ処理プログラムi-OPALなどを用いる。これらの統計解析により特に抗腫瘍効果および末梢神経障害などの臨床情報と相関するタンパクの生物学的および臨床的な意義付けを文献情報を基に行い、抗腫瘍効果および末梢神経障害など臨床的に重要な情報のバイオマーカーを探索する。 術前パクリタキセル療法開始前の血漿を用いた解析に加えて、治療開始後早期の変化の有用性を検討するために治療開始1週間後、すなわち2回目の投与前の血漿サンプルにおいてもプロテオーム解析することにより、治療効果や神経障害を治療開始早期に予測するバイオマーカーを探索する。また、乳がん細胞株を用いて薬物を暴露したときのプロテオーム解析も行い、患者における解析結果を補完する情報を得たいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度(H23年度)には術前パクリタキセル療法開始前の血漿サンプルを用いてプロテオーム解析を実施し報告を受け、これらの予備的統計解析を行っている。まだ解析途中であったためこの経費の精算がすんでいないため次年度使用額が発生した。H24年度には繰り越した研究費をまずこの精算に用いる。さらにパクリタキセル投与前に加えて治療開始1週間後の血漿サンプルのプロテオーム解析も行うが、これらの経費の精算にH24年度の研究費と合わせて使用する。これらの結果に基づいてメタボローム解析も開始する予定であり、その経費としても研究費を使用する計画である。これらの解析結果によっては、その成果を検証するために乳がん細胞株を用いた実験のプロテオーム解析を行うことも考えており、その場合は細胞株の維持および薬理実験に伴う経費も必要となる可能性がある。
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