研究課題/領域番号 |
23590640
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
南 博信 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60450574)
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研究分担者 |
向原 徹 神戸大学, 医学部附属病院, 准教授 (80435718)
吉田 優 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00419475)
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キーワード | プロテオーム / 乳癌 / パクリタキセル |
研究概要 |
本研究ではより良い乳がんの薬物療法を開発することを目的として、乳がんに対するkey drugの一つであるパクリタキセルによる治療の効果および副作用と相関するタンパクおよび代謝産物をプロテオームおよびメタボローム解析により探索している。 倫理委員会の承認を受けた臨床研究として術前治療としてパクリタキセルの毎週投与を受けた31名の乳がん患者から、治療前および初回投与後6~8日目の血漿サンプルを得た。パクリタキセルは80 mg/m2を週一回12週連続投与し、引き続きdoxorubicinとcyclophosphamide (AC療法)を3週ごとに4回投与した。パクリタキセル投与中は血液毒性や末梢神経毒性などの副作用を毎週評価し、抗腫瘍効果はパクリタキセル終了後AC療法開始前、およびAC療法後手術前に触診および超音波検査で評価した。また切除標本で病理学的効果を評価した。 今年度は治療効果および副作用を解析し、プロテオーム解析と治療効果および末梢神経障害との関連を検討した。プロテオーム解析では、ペプチド混合物試料を液体クロマトグラフィーにて分離しタンデム質量分析にてペプチドイオンの検出・分子量測定を行い、イオン質量スペクトラムからタンパクを同定した。Good response以上の奏効が20例中4例で得られ、Grade 2以上の末梢神経障害が9例で出現した。有効性および末梢神経障害と相関するタンパクが同定された。 また、乳癌において薬剤耐性に関与していると言われているシグナル伝達系の役割を解明するために乳がん細胞株を用いてinsulin-like growth factor 1 receptor阻害薬の薬理学実験を行い、AktとS6Kのかい離が耐性に関与していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
術前パクリタキセル療法で治療を受けた20例をプロテオーム解析した。20例の閉経状態は9例が閉経前、11例が閉経後で、T因子はT2、T3、T4がそれぞれ13、5、2例、N因子はN1が18例でN0ga2例、エストロゲン受容体は11例で陽性、9例が陰性で、HER2は5例で陽性、15例で陰性であった。20例のうち4例がgood PR以上の効果が得られ、2例でPDであった。末梢神経障害はgrade 2が8例でみられgrade 3は1例で出現した。治療開始前と初回パクリタキセル投与6~8日目の保存血漿を用いてショットガンプロテオーム解析を行った。各サンプル3回ずつ測定し、合計120測定を実施した。Good PR以上の奏効例と非奏効例、Grade 2以上の末梢神経障害発現例と非発現例で比較することにより、パクリタキセルの効果あるいは末梢神経障害と関連する因子の同定を試みた。 その結果、治療開始前の10種の血漿タンパクおよび治療開始後の8種の血漿タンパクの濃度に奏効例と非奏効例で有意な差(p<0.05)を認めた。また、4種のタンパクの治療前後の濃度変化が奏効と関連していた。さらに、8種の治療前のタンパク、4種の治療開始後のタンパク、5種のタンパクの治療開始前後の変化が末梢神経障害発現と関連していた。 また、乳癌において薬剤耐性に関与していると言われているシグナル伝達系の役割を解明するために乳がん細胞株を用いてinsulin-like growth factor 1 receptor阻害薬の薬理学実験を行った。 一方、メタボローム解析はプロテオーム解析の結果を受けて解析を開始した方が効率的と考えて、プロテオームの解析を優先させメタボローム解析は開始せずにいる。しかし、本研究の主体はプロテオーム解析と考えており、その点で本研究は現在のところおおむね順調に進展と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今までの研究で同定された乳がんのパクリタキセル治療に対する奏効および末梢神経障害と関連するタンパクの臨床的な有用性をバイオマーカーの視点からさらに検討する。また、最近ではHER2陽性乳がんではパクリタキセルにトラスツズマブを併用するがトラスツズマブに対する耐性機序と関連するマイオマーカーを検索する目的で、HER2陽性乳がんの細胞株からトラスツズマブ耐性株を作成し、親株および耐性株にトラスツズマブを作用させてプロテオミクスの変化を解析する。 さらにはPARP阻害薬と言われていたiniparibが乳がんに対して臨床第II相試験では大きな効果を示したにもかかわらず、大規模第III相試験では有効性が示唆されたものの統計学的には優越性は示されなかった。最近になってiniparibは臨床濃度ではPARP阻害活性を有さないことが示されたが、臨床で観察された有効性の機序は分かっていない。今後は可能であれば、乳がんに対するiniparibの作用機序を解明する目的で乳がん細胞株を用いてプロテオーム解析も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今までに術前パクリタキセル療法開始前および開始後の血漿サンプルを用いてプロテオーム解析を実施した。今後はさらにタンパクの同定とその意義の解明を行う。また、HER2陽性乳がんに対しパクリタキセルと併用するトラスツズマブの耐性機序と関連するマイオマーカーを検索する目的で、HER2陽性乳がんの細胞株から作成したトラスツズマブ耐性株および親株にトラスツズマブを作用させてプロテオミクスの変化を解析する。さらには当初はPARP阻害薬と言われながらその後に臨床濃度ではPARPを阻害しないことが判明したiniparibは、臨床で乳がんに対して有効性が示唆されたため何らかの薬理作用を有するものと考えられる。iniparibの真の採用機序を解明する目的で乳がん細胞株を用いたプロテオーム解析も行う予定である。研究費はこれらの細胞株を用いた実験およびプロテオーム解析に使用する。
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