研究課題/領域番号 |
23590644
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
原 宏和 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (30305495)
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研究分担者 |
足立 哲夫 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (40137063)
神谷 哲朗 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (60453057)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 亜鉛 / 脳虚血 / 神経細胞死 / スプライシング / アポトーシス |
研究概要 |
亜鉛は脳虚血時の神経細胞障害の増悪因子として考えられているが、その分子機構は十分に解明されていない。また、Bcl-2ファミリーに属するアポトーシス促進因子BH3-onlyタンパク質(PUMA、Bimなど)の発現が脳虚血障害時に亢進すること、これら遺伝子の欠損により神経細胞死が軽減されることなどから、BH3-onlyタンパク質は虚血性神経細胞障害の発症に密接に関与していると考えられている。しかし、現在、亜鉛とBH3-onlyタンパク質との関連性は明らかでない。BH3-onlyタンパク質Bimはスプライシングの違いにより種々のアイソフォーム(BimEL, BimL, BimS)が産生されている。申請者は、亜鉛によりBim mRNAのスプライシングパターンが変化し、アポトーシス活性の最も強いBimSの発現が亢進することを報告している。本年度は、この現象の分子機構の解明に取り組み、亜鉛に応答しBimのスプライスング変化を誘導するBim pre-mRNA上のシスエレメントがエクソン4に隣接したイントロンに存在することを明らかにした。また、スプライシングは、pre-mRNAに結合するRNA結合タンパク質(SRタンパク質など)により調節されているが、申請者は亜鉛によりSRタンパク質の中で特にSRp55のリン酸化状態が著しく変化することも明らかにした。これらの結果を基にSRタンパク質のデータベース検索を行ったところ、興味深いことに、今回同定した領域にSRp55の結合部位の存在が推定された。以上のことから、亜鉛によるBim mRNAのスプライシングパターン変化は、亜鉛がSRp55のリン酸化状態を変化させることでエクソン4の排除が促進され、BimSの産生亢進が引き起こされる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、亜鉛によりBimのスプライシングパターンが変化するという新しい現象を発見したことから、本申請課題ではこの分子機構の解明に取り組んでいる。この機構を解析するために、本年度の計画では、1)Bimのスプライシング過程を再現できるBimミニ遺伝子の作製と評価、2)Bimミニ遺伝子の欠失変異体の作製とこの変異体を用いたBim pre-mRNA上の亜鉛応答領域の同定、3)亜鉛によるBimのスプライシング変化に関与するスプライス因子の同定を目標としていた。 これまでの結果、1)に関しては、作製したBimミニ遺伝子が亜鉛によるBimSのスプライシング亢進という現象を再現できたことから、本ミニ遺伝子はBimスプライシングの分子機構解明の重要なツールとなり得ることが確認できた。2)に関しても、作製した種々のBimミニ遺伝子欠失変異体用いた解析から、Bimのエクソン4に隣接したイントロン領域に亜鉛応答してBimの選択的スプライシングを変化させるシスエレメントが存在すること、エクソン4の5’および3’の近傍に構成的なスプライシングに重要なシスエレメントが存在することを明らかにした。3)に関しては、現在、実験が進行中であるが、ESE finderを用いた解析から、亜鉛応答するシスエレメントが存在すると推定される領域にスプライシング因子であるSRp55の推定配列が多数存在すること、細胞の亜鉛曝露によりSRp55のリン酸化状態が顕著に変化することなどが確認できた。しかし現時点では、SRp55が亜鉛によるBimのスプライシングパターンの変化に直接的に関与しているかどうかを証明するには至っていない。以上の研究推進状況から判断し、申請者は実験計画がおおむね予定通り進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に実施した実験では、亜鉛に応答するBim pre-mRNAのシスエレメントが含まれている領域を同定し、RNA結合タンパク質のSRp55が亜鉛によるBimのスプライシング変化に関与している可能性を示した。最近、B-RafV600Eの阻害剤により引き起こされるアポトーシス時にBimSの選択的な発現亢進が認められること、この現象にSRp55が関与していることが報告されたことから、SRp55によるBimの選択的スプライシング制御機構に興味が持たれる。しかし、現時点では、亜鉛がSRp55などSRタンパク質の活性制御に及ぼす影響については全く不明である。申請者は、本年度実施した実験においてSRp55のリン酸化状態が亜鉛により著しく変化することを確認している。それゆえ、亜鉛によるプロテインキナーゼ活性化あるいはプロテインフォスファターゼ阻害がこの現象に関与しているのではないかと推定している。これまでに、SRタンパク質のリン酸化に関わるプロテインキナーゼが数種類同定されており、中でもcdc2-like kinase(Clk)やserine/arginine (SR) protein-specific kinase(SRPK)などがスプライシング制御に重要なプロテインキナーゼとして報告されている。実際、申請者は、ClkファミリーのうちClk1およびClk4のmRNAの発現が亜鉛により数時間のうちに著しく誘導されること、Clk阻害剤が亜鉛によるBimSの選択的発現誘導を部分的に抑制することを予備実験より確認している。そこで、来年度は、亜鉛によるBimSの選択的発現亢進におけるSRp55の関与を明らかにするために、1)亜鉛によるClkおよびSRPK活性化機構の解明、2)亜鉛によるSRp55リン酸化亢進に関与するプロテインキナーゼの同定を目標とし研究を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究も細胞および分子生物学的解析が中心となることから、多くの抗体、測定キットを必要とするため、これらの費用を消耗品費として申請する。また、一部で初代培養した神経細胞使用する場合もある。神経細胞は実験の度にラット胎児から神経細胞を調製すること必要があるため、動物、試薬、培養器具の購入にかかる費用についても消耗品として申請する。 年2回の国内学会(日本薬学会、日本生化学会など)に参加するための費用として旅費を申請する。 また、通信運搬費、英文校正委託料、研究成果投稿料などの雑費をその他として申請する。
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