研究課題/領域番号 |
23590644
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
原 宏和 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (30305495)
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研究分担者 |
足立 哲夫 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (40137063)
神谷 哲朗 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (60453057)
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キーワード | 亜鉛 / スプライシング / アポトーシス |
研究概要 |
亜鉛は脳虚血時の神経細胞障害の増悪因子として考えられているが、その分子機構は十分に解明されていない。申請者は、亜鉛によりアポトーシス促進因子であるBim遺伝子のスプライシンパターンが変化し、アポトーシス活性の最も強いBimSの発現が亢進すること明らかにしたので、その分子機構の解明に取り組んできた。スプライシングが正確に行われるためには、RNA前駆体上のシスエレメントが重要である。そこで、本年度は、昨年度作製したBimミニ遺伝子を用いて、亜鉛応答に関与するシスエレメントの同定を試みた。その結果、エクソン4に隣接したイントロンにあるAGGCTGTGTGTGGCATTTAの配列が亜鉛によるBimSの産生亢進に関与しているintronic splicing enhancer(ISE)でことを明らかにした。また、このISEにSRタンパク質SRp55が結合することも明らかにした。 昨年度、亜鉛によりSRp55の高リン酸化が著しく亢進することを示したが、このリン酸化とBimSの産生亢進との関連性は不明であった。そこで、SRタンパク質のリン酸化に関わるプロテインキナーゼとしてClkやDyrk1Aが報告されていることから、亜鉛によるBimS亢進に対するこれらキナーゼの影響を検討した。その結果、Clk1阻害剤(TG003)およびDyrk1A阻害剤(harmine)が亜鉛誘導性のBimS発現の優先的な亢進を阻害したことから、亜鉛によるBimSの産生亢進にこれらキナーゼの関与が示唆された。しかし、亜鉛により惹起されるSRp55の高リン酸化に対する影響を検討したところ、TG003によりSRp55の高リン酸化が一部阻害されたが、harmineはその高リン酸化に対してほとんど影響を示さなかった。以上の結果から、亜鉛による促進されるSRp55の高リン酸化にはClk1が部分的に関与していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、前年度の研究で、亜鉛によるBim遺伝子からBimSの優先的な産生亢進にエクソン4に隣接したイントロン領域が重要であること、亜鉛の曝露によりSRp55の高リン酸化が亢進することを明らかにしていた。本年度は、亜鉛によるBimのスプライシング変化の分子機構をさらに理解するために、1)イントロンに存在すると推察される亜鉛応答に関与するISEとそこに結合する分子の同定、2)亜鉛によるSRp55の高リン酸化の機序の解明、を目的として研究を実施した。 その結果、1)に関しては、ESE finderを用いたSRタンパク質の結合部位の検索から、SRp55と強い親和性を示す推定配列がイントロン領域に多数存在することが判明した。そこで、その部位に変異を導入したミニ遺伝子を作製し、スプライシングの解析を行い、亜鉛応答に関連するISEを同定することができた。また、この配列にSRp55が結合することも確認できた。2)に関しては、SRタンパク質のリン酸化への関与が推測されるClkやDyrk1Aの阻害剤を用いた解析から、亜鉛によるBimSの産生亢進にはこれらキナーゼが関与していることが明らかとなった。しかし、Clk阻害剤は亜鉛によるSRp55の高リン酸化を部分的にしか抑制しなかったことから、SRp55の高リン酸化には他のキナーゼが関与している可能性が示唆された。そこで、Dyrk1A阻害剤を含めいくつかキナーゼ阻害剤を使用し、亜鉛によるSRp55の高リン酸化に対する影響を検討したが、Clk阻害剤以外に高リン酸化を抑制するものは認められなかった。それゆえ、亜鉛により惹起されるSRp55のリン酸化の分子機構については未だ解明に至っておらず、今後さらなる検討が必要であると考えている。 以上の研究推進状況から判断し、申請者は実験計画がおおむね予定通り進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、以下の2点を中心に研究を実施する。 1.亜鉛によるSRp55修飾の分子機構 本年度実施した研究により、亜鉛によるBim mRNA前駆体からBimSへのスプライシングへの変化は、エクソン4に隣接したイントロンに存在するISEが重要であること、また、このISEにSRp55が結合することを示した。さらに、亜鉛により促進されるSRp55の高リン酸化にClkが部分的に関与していることも明らかにした。しかし、SRp55の高リン酸化がSRp55のISEへの結合活性にどのような影響を及ぼしているかは不明である。そこで、本年度は、亜鉛曝露によるSRp55の修飾と活性との関連性について検討する。また、SRp55の高リン酸化にClk以外のキナーゼも関与していると考えられるが、現時点では、そのようなキナーゼの同定に至っていない。そこで、SRp55のリン酸化に関わるキナーゼを同定するための実験を継続する。一方で、SRタンパク質はアセチル化やユビキチン化などリン酸化以外の修飾によりその活性が調節されていることが報告されている。そこで、リン酸化以外の修飾が亜鉛によるSRp55の活性変化に関与している可能性についても検討する。 2.亜鉛による神経細胞死に対する保護作用発現の分子機構 我々は、以前、ドパミン受容体アゴニストのアポモルフィン(Apo)が亜鉛曝露により惹起される神経細胞死を抑制することを明らかにしている。この保護作用にApo自己酸化による生じる活性酸素やApoのキノン体が部分的に関与していた。そこで、これら分子が亜鉛傷害に対する保護作用を発揮する分子機構について検討する。また、Apoは培養神経細胞おいて亜鉛の細胞内恒常性に関与するメタロチオネインや亜鉛トランスポーター(ZnT1)の発現を亢進させたことから、Apoがこれらの遺伝子の発現を亢進する分子機構についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究も細胞および分子生物学的解析が中心となることから、抗体、測定キットを必要とするため、これらの費用を消耗品費として申請する。また、神経保護に関する実験では、初代培養した神経細胞を使用する実験も計画している。神経細胞は実験の度にラット胎児から神経細胞を調製すること必要があるため、動物、試薬、培養器具の購入にかかる費用についても消耗品として申請する。 次年度は国内学会(日本生化学会)と国際学会(Neuroscience 2013, サンディエゴ)に参加するための旅費を申請する。また、通信運搬費、英文校正委託料、研究成果投稿料などの雑費をその他として申請する。
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