本年度は、1) 亜鉛によりアポトーシス促進因子Bimのスプライシンパターンが変化する分子機構と、2)ミクログリアの活性化を抑制する化合物の探索、を中心に研究を実施した。 1) 前年度までの研究で、Bim mRNA前駆体からBimSへの選択的スプライシングは、エクソン4に隣接したイントロンに存在するスプライシングエンハンサー(ISE)にRNA結合タンパク質SRp55が結合することにより起きることを示した。そこで今年度は、亜鉛がSRp55の機能に及ぼす影響を検討した。亜鉛よるSRp55のRNA結合能の変化をUVクロスリンク法などを用いて解析した結果、亜鉛はSRp55の高リン酸化を促進すること、高リン酸化されたSRp55ではRNA結合能が消失することが明らかとなった。また、定常状態ではSRp55は核内に広く局在していたが、亜鉛によりSRp55の局在が変化し、核スペックルが巨大化するのが確認できた。以上より、亜鉛によるBim遺伝子のスプライシングパターン変化は、亜鉛によりSRp55のRNA結合能が低下し、エクソン4を認識できなくなることにより引き起こされていると考えられた。 2) 脳梗塞の病巣では脳内の免疫担当細胞であるミクログリアの活性化が認められる。我々は、活性化ミクログリアから産生される一酸化窒素(NO)誘導体パーオキシナイトライトにより神経細胞内亜鉛が遊離し、神経細胞死が惹起されることを明らかにしている。それゆえ、活性化ミクログリアにおける誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現亢進を抑制することが脳梗塞治療に重要と考え、リポ多糖(LPS)により誘導されるiNOSの発現を抑制する化合物の探索を行い、強いiNOS誘導阻害作用を有する化合物を得た。また、この化合物はLPSにより活性化されるSTATシグナルを阻害することによりiNOS誘導抑制作用を発揮することを明らかにした。
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