研究課題/領域番号 |
23590650
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤 芳久 日本大学, 薬学部, 教授 (50151551)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / 運動ニューロン / 酸化ストレス / 4-hydroxynonenal / N-acetyl-L-cysteine |
研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)は、運動ニューロンの選択的な変性を特徴とする極めて予後不良の疾患で、発症メカニズムも不明のままである。申請者は、膜脂質過酸化により生じるアルデヒド産物4-hydroxynonenal (HNE)に着目した研究を行い、N-acetyl-L-cysteine (NAC)がHNE誘発神経細胞死に対して抑制作用を持つことを見出している。本年度は、NACを基本骨格として誘導体を合成し、in vitro ALSモデルにおいて保護効果を持つ化合物のスクリーニングを中心に行った。はじめに、アミド基を導入することにより中枢移行性が増加させたNAC amide(NACA)やミトコンドリア指向型NAC (mitoNAC)など12種類の化合物の合成を行った。その後、マウス海馬神経細胞由来HT22細胞を用いて、HNE誘発神経細胞死に及ぼす影響を検討したところ、NACより強力な保護作用を持つ化合物は認められなかったが、NACAがNACと同程度の細胞死抑制効果を持つことが明らかとなった。次に、NACおよびNACAがALSモデルマウスであるG93A superoxide dismutase 1トランスジェニックマウス(G93Aマウス)に及ぼす影響についての検討を行なった。ALSの初期症状である片麻痺が出現し、HNE付加タンパク質の増加が認められる15週齢からNACを投与したところ、G93Aマウスの生存期間や運動機能の低下に影響を及ぼさなかった。しかし、NACA投与は、G93Aマウスの生存期間を顕著に延長するとともに、運動機能の低下やcaspase-3の活性化を抑制した。以上の結果より、HNEがALSの進行に重要な役割を演じていることが示唆された。また、化学修飾により体内動態を改良したNACAは運動機能障害発症後にも有効なALS新規治療薬となる可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では、NACを基本骨格として誘導体を合成し、HT22細胞を用いたin vitro ALSモデルを用いてNACより強力な細胞死抑制作用を有する化合物を選び出すことを中心に検討を行った。その結果、in vitroレベルでNACよりも強力な細胞死抑制作用を持つ化合物は認められなかったが、NACと同程度の作用を持つ化合物の合成に成功した。また、当初の研究計画よりも進んで、これらの化合物の効果について、ALSモデルマウスを使った検証を行った。その結果、in vivoレベルで、この化合物がNACよりも有用なALS治療薬となる可能性が明らかとなった。一方、本年度は、G93Aマウスを用いて、責任病巣である脊髄内でHNE付加タンパク質が蓄積され易い領域(運動ニューロン、グリア細胞)や細胞内小器官(ミトコンドリア、小胞体、核)を免疫組織化学法等を用いて解析する予定であった。しかし、HNEを検出するのに最適な固定方法、増感方法の条件検討を行ったため、HNE付加タンパク質が増加する細胞や細胞内小器官の同定には至らなかった。この点については、NACAやNACが及ぼす影響と含めて、次年度以降の検討課題とした。以上のように、HNE付加タンパク質の出現部位の解析については不十分な点があったものの、当初の計画以上に化合物のスクリーニングはかなり進んだため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、本年度検討が不十分であったHNE付加タンパク質が蓄積され易い細胞(運動ニューロン、グリア細胞)や細胞内小器官(ミトコンドリア、小胞体、核)について、免疫組織化学的および生化学的手法等を用いてその蓄積を明らかとするとともに、NACやNACAが及ぼす影響についても検証する。また、 HT22細胞およびマウス運動ニューロン由来細胞NSC-34において、過剰なCu処置による細胞死の誘導にHNE付加タンパク質は変化するか否かをWestern Blot法および免疫組織化学法により解析することやCu処置により誘発される細胞死はNACやその誘導体により抑制可能であるかを検証することにより、細胞内Cuの不均衡がHNEやHNE付加タンパク質の発現を誘導する因子となるのかについて検証する。さらに、Cuキレート薬を投与したG93A マウスの脊髄でのHNE付加タンパク質の発現量や部位の変化をWestern Blot法および免疫組織化学法により解析を行うことで、過剰なCuがHNE産生増大の引き金となりうるかを明らかにする予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、G93Aマウスを用いて、脊髄内でHNE付加タンパク質が蓄積され易い領域(運動ニューロン、グリア細胞)や細胞内小器官(ミトコンドリア、小胞体、核)を免疫組織化学法や生化学的手法等を用いて解析する。そのため、マウスの系統維持費に充てる他、細胞の特定画分(細胞膜、核、ミトコンドリア、小胞体、細胞質など)を調製する抽出キット、抗HNE抗体、スライドガラス等のWestern Blot法や免疫組織化学法に使用する消耗品の購入に使用する予定である。また、次年度はHT22細胞およびNSC-34細胞などの培養細胞を用いた検討も行う予定である。これらの細胞は、すでに購入あるいは譲渡されているため、新たに購入する予定はない。そのため、研究費は各細胞の培養に必要なMedium、シャレー、ピペット等の培養関連消耗品の購入に使用する予定である。
|