研究課題/領域番号 |
23590650
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤 芳久 日本大学, 薬学部, 教授 (50151551)
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / 運動ニューロン / 酸化ストレス / 4-hydroxynonenal / N-acetyl-L-cysteine / prostaglandin E2 |
研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)は、運動ニューロンの選択的な変性を特徴とする極めて予後不良の疾患で、発症メカニズムも不明のままである。申請者は、膜脂質過酸化により生じるアルデヒド産物4-hydroxynonenal (HNE)に着目した研究を行い、N-acetyl-L-cysteine (NAC)がHNE誘発神経細胞死に対して抑制作用を持つことを明らかにしている。また、昨年度の研究により、NACを基本骨格として誘導体を合成したNAC amide(NACA)がALSモデルマウス(G93A)の生存期間を顕著に延長するとともに、運動機能の低下やcaspase-3の活性化を抑制することを見出した。そこで、本年度は、HNE付加タンパク質が蓄積され易い細胞(運動ニューロン、グリア細胞)や細胞内小器官(ミトコンドリア、小胞体、核)について検討を行った。G93Aの腰髄組織では、特定の細胞種において発現増加するような傾向は認められなかったが、ミトコンドリア分画および小胞体分画の発現量は増加傾向を示した。そこで、NACAが、G93Aの腰髄で認められるHNE付加タンパク質増加に及ぼす影響について検討したところ、NACAの投与によりG93Aの腰髄に蓄積するHNE付加タンパク質の発現量は顕著に抑制された。 また、運動ニューロン由来細胞NSC-34を用いて、過剰なCu処置により誘発される細胞死におけるHNE付加タンパク質の発現の変化をWestern Blot法により解析したが、Cu処理によるHNE付加タンパク質の発現変化は認められなかった。さらに、NACやNACAの投与は、過剰なCu処置が誘発する細胞死に対して抑制作用を示さないだけでなく、高濃度のNACやNACA処置Cu誘発細胞死を増強する作用を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、ALSモデルマウス(G93A)の腰髄においてHNE付加タンパク質が蓄積され易い細胞や細胞内小器官について検討を行った。その結果、G93Aでは、特定の細胞種において発現増加するような傾向は認められなかった。同様に、G93Aの腰髄組織から調整した各細胞内小器官分画を解析したところ、ミトコンドリア分画および小胞体分画の発現量は増加する傾向を示した。次に、NACAがG93Aの腰髄で認められるHNE付加タンパク質増加に及ぼす影響について検討したところ、NACAの投与によりHNE付加タンパク質の発現量は顕著に抑制された。 また、運動ニューロン由来細胞NSC-34を用いて、過剰なCu処置により誘発される細胞死においてHNE付加タンパク質の発現は変化するか否かをWestern Blot法により解析した。その結果、Cu処置によるHNE付加タンパク質の発現変化は認めらなかった。さらに、NACやNACAの投与がCu処置誘発細胞死に及ぼす影響についても検討を行ったが、細胞死抑制作用は認められなかった。興味深いことに、高濃度のNACやNACA処置はCu誘発細胞死を増強することが明らかとなった。 最後に、HNEにより発現が制御される因子についても検討を行い、prostaglandin E2 (PGE2)合成酵素であるmicrosomal prostaglandin E synthase-1 (mPGES-1)の発現がG93A腰髄では増加することを見出した。さらに、PGE2が運動ニューロンに及ぼす影響を検討したところ、運動ニューロン由来細胞NSC-34において、PGE2の曝露はEP2受容体の活性化を介して細胞死を誘発することが明らかとなった。この一部は、関連学会で発表し、学術雑誌に受理された。 以上のように、当初の計画以上に研究が進み、HNEにより発現が制御されるタンパク質を同定するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、G93Aにおいてこれまでのスクリーニングで選び出したNACAの有効性について、G93Aマウスを用いた検証を行う。具体的には、投与法や投与開始時期を変えることによる影響を検討する予定である。また、細胞内小器官に蓄積するHNE付加タンパク質にNACAが及ぼす影響について、生化学的手法を用いて検討する予定である。 さらに、本年度の研究で見出された、NACAやNACのCu誘発細胞死増加効果のメカニズムについて、グルタチオン合成に関与する酵素の発現変化に解析する。同様に、PGE2やmPGES-1の阻害薬(あるいは活性化薬)がG93AのALS発症や進行に及ぼす影響についても可能な限り検証し、HNEの産生亢進機構や細胞毒性にmPGES-1やPGE2の増加がどのように関与するのかを明らかにすることを試みる。 最後に、これらの研究結果をとりまとめ、学術誌に投稿するとともに所属学会にて発表する。また、研究室ホームページ上で公表する。 以上のような検討から、ALSにおけるHNEの役割を解明するとともに、HNE抑制薬が新たなALS病治療薬となる可能性について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、G93Aを用いたNACAの効果の検証を中心的に行うため、研究費の一部は、これらの検討に使用するマウスの飼育費に使用する。また、NACAの投与が、グルタチオン合成酵素の発現に及ぼす影響や細胞内小器官に蓄積するHNE付加タンパク質の発現に及ぼす影響について検討するため、主として、これらの解析を行うWestern Blot法あるいRT-PCR法に使用する消耗品(プライマー、抗体含む)の購入に使用する予定である。 さらに、研究結果をと学術誌に投稿するとともに学会発表するための投稿料および出張旅費にも使用する。
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