研究課題/領域番号 |
23590653
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
安井 裕之 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (20278443)
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研究分担者 |
吉川 豊 京都薬科大学, 薬学部, 講師 (20388028)
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キーワード | 膵β細胞保護 / GPR39 / Pdx-1 / 亜鉛医薬品 / インスリン |
研究概要 |
わが国における糖尿病は、2008年には糖尿病が強く疑われる人とその予備軍を合わせると2,210万人に達することが明らかにされた。近未来の高齢化社会の到来を考慮すると、何らかの画期的な対策が必要とされる待ったなしの状況である。生体微量元素であり、最近では細胞内情報伝達作用や組織再生能が大きく注目されている亜鉛は、20世紀後半にインスリン様作用が証明されて以来、多くの研究が進められてきた。本課題では、多くの配位子・亜鉛錯体を合成して亜鉛ライブラリーを構築し、細胞系および実験動物の評価系に基づいてヒトに応用可能な新規の糖尿病薬を目指した亜鉛含有医薬品の開発を目標としている。研究者らは、亜鉛錯体の抗糖尿病作用機構の一つとして、GPCRの一つであるGPR39の活性化を介した膵臓β細胞からのインスリン分泌促進作用があることを世界で初めて見出した。そこで、インスリノーマ様の培養細胞を用いて亜鉛錯体のインスリン分泌促進効果とその作用機構を検討し、この作用の一部が亜鉛錯体による膵臓β細胞の保護作用に起因するのではないかと考え、これについて検討を行った。さらに、亜鉛イオンがインスリン遺伝子や GLUT2 遺伝子などの発現を制御する転写因子であるpdx-1の発現を調節しているという報告にもとづいて、本研究では、亜鉛錯体が膵臓β細胞におけるカルシウム動態に与える影響、インスリン分泌に与える影響、インスリン遺伝子とpdx-1遺伝子の発現に対する変動、およびpdx-1リン酸化によるpdx-1活性化についてラットインスリノーマ細胞をや実験糖尿病モデル動物を用いて検討し、初年度や二年度に得られた成果より当初の目的を達成しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに達成した成果を以下に列挙する。 1)トロポロン類・ヒノキチオール類・ピリチオン類に加えてマルトール類のO原子→S原子→Se原子置換体を中心とする配位子および亜鉛錯体を合成し、可能な限り多くの誘導体・化合物をライブラリー化した。 2)亜鉛錯体ライブラリーにおけるdrug like physico-chemical propertiesを総合的に評価した結果、有機層-水層間の分配測定により亜鉛錯体の分配係数が重要と結論した。 3)膵臓β細胞(ラット由来RIN-5Fインスリノーマ)に発現するGPCRの1つであるGPR39を介したβ細胞保護作用、すなわち「亜鉛によるGPR39の活性化→一過性のインスリン分泌によるβ細胞へのアートクリン作用→転写因子Pdx-1の発現上昇とリン酸化による活性化→インスリン転写調節を含むβ細胞保護因子の誘導やインスリン分泌作用の活性化」という一連の作業仮説を分子レベル(主にリアルタイムPCR法とウェスタンブロット法を用いて)で解明した。 4)インビトロ実験系で見出された高活性の亜鉛錯体について、インビボ実験への適用を実施した。すなわち、インスリン分泌不全型およびインスリン抵抗性の2型糖尿病モデル動物に、細胞系で見出された高活性の亜鉛錯体を連続経口投与し、それぞれのバイオマーカーの変動を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後検討すべき課題は以下の二点と考える。 1)Zn(opt)2錯体よりも高活性な亜鉛錯体の探索研究:まず、亜鉛錯体の物理化学的特性に関する情報をより集積するため、以下の項目について検討する。まず、亜鉛錯体のX線立体構造を解析する。続いて、pH滴定法により、中性pH領域における亜鉛化学種の同定、および亜鉛錯体の安定度定数を計算する。 2)亜鉛錯体の体内動態解析:亜鉛錯体の化学構造に依存したPK-PD理論を構築するため、トレーサーを用いた動態試験を実施し、理研との共同研究によりPETやGREIを用いて組織分布をイメージング解析する。まず、Caco-2細胞を用いた上皮細胞膜透過性を評価し、亜鉛錯体を経口投与後の消化管吸収性を予測する。赤血球や白血球内部への移行性を評価し、血液中分布性や臓器移行性を予測する。次に、最終的に絞られた亜鉛錯体について、臨床への橋渡し研究を目的として、亜鉛錯体の化学構造に依存したPK-PD理論を構築するため、トレーサーを用いた動態試験を実施し、理研との共同研究によりPETやGREIを用いて組織分布をイメージング解析する。最終的に絞られた亜鉛錯体について、臨床への橋渡し研究を目的として、亜鉛錯体の化学構造に依存したPK-PD理論を構築するため、トレーサーを用いた動態試験を実施し、理研との共同研究によりPETやGREIを用いて組織分布をイメージング解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度は、GREIを用いたin vivoにおける組織分布をイメージング解析が、予想以上に進展した。2012年度は、Pdx-1の発現および核内移行を促進させる候補物質であるZn(opt)2を含めた数種類の亜鉛錯体の詳細な体内動態解析を検討するための消耗品費用、およびさらなる高活性亜鉛錯体を合成するための消耗品費用に研究費を充当する。 1) 体内動態および体内分布を詳細に解析するための放射性亜鉛トレーサーの購入 2) 抗体などの生化学用試薬 3) 実験糖尿病モデルマウス
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