研究概要 |
わが国における糖尿病は、2008年には糖尿病が強く疑われる人とその予備軍を合わせると2,210万人に達することが明らかにされた。生体微量元素であり、最近では細胞内情報伝達作用や組織再生能が大きく注目されている亜鉛は、20世紀後半にインスリン様作用が証明されて以来、多くの研究が進められてきた。本課題では、新規の糖尿病薬を目指して多くの亜鉛錯体を合成して亜鉛ライブラリーを構築し、細胞系および実験動物の評価系に基づいた亜鉛含有医薬品の開発を目標としている。研究者らは、亜鉛錯体の抗糖尿病作用機構の一つとして、GPCRの一つであるGPR39の活性化を介した膵臓β細胞からのインスリン分泌促進があることを世界で初めて見出した。そこで、インスリノーマの培養細胞を用いて亜鉛錯体のインスリン分泌促進効果とその作用機構を検討し、この作用の一部が亜鉛錯体による膵臓β細胞の保護作用に起因するのではないかと考え、これについて検討を行った。さらに、亜鉛イオンがインスリン遺伝子などの発現を制御する転写因子であるpdx-1の発現を調節しているという報告にもとづいて、亜鉛錯体が膵臓β細胞におけるカルシウム動態に与える影響、インスリン分泌に与える影響、インスリン遺伝子とpdx-1遺伝子の発現に対する変動、およびpdx-1リン酸化によるpdx-1活性化についてインスリノーマ細胞をや実験糖尿病モデル動物を用いて検討した。初年度と2年度に得られた成果より最終年の検討を行い、現状で最も有望な亜鉛錯体であるZn(opt)2が、1型糖尿病モデルマウスにおいて主な作用点は肝臓であること、2型糖尿病モデルマウスにおいては膵臓と肝臓が主な作用臓器であると示唆された。今後の継続的課題として、標的臓器とターゲット分子、およびそれらの治療効果への寄与率をより明確にする必要があると結論された。
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