研究課題/領域番号 |
23590654
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
三島 健一 福岡大学, 薬学部, 准教授 (00320309)
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研究分担者 |
藤原 道弘 福岡大学, 薬学部, 教授 (10091331)
入江 圭一 福岡大学, 加齢脳科学研究所, 研究員 (50509669)
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キーワード | ADAMTS13 / 脳梗塞 / VWF / t-PA |
研究概要 |
内因性生理活性物質ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloprotease with thrombospondin type 1 motifs 13)は、血液凝固のtriggerであるフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor;VWF)を切断するメタロプロテアーゼである。本研究課題は、ADAMTS13が脳梗塞発症時において果たす役割の解明とADAMTS13を利用した治療法の確立を目的としている。本年度は、ADAMTS13の脳梗塞に対する治療効果を詳細に解析した。実験は、ddY雄性マウスに中大脳動脈(MCA)閉塞処置を行い、ADAMTS13を虚血前と虚血後に投与した後、TTC染色を行い、梗塞巣への治療効果を評価し、血栓溶解薬として脳梗塞に使用されている組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA;tissue plasminogen activator)と比較した。その結果、ADAMTS13の脳虚血前および虚血直後の投与はMCA閉塞により発現する梗塞巣を用量依存的に抑制した。このとき、t-PAと比べて出血傾向が低いことも明らかにした。次に、ADAMTS13は、血管内皮細胞、ミクログリア、マクロファージ等のスンカベンジャー受容体のCD36と結合し、炎症反応との関わりを有することが知られている。そこで、MCA閉塞処置後の脳内CD36の変化を検討した結果、CD36陽性細胞が梗塞巣周辺領域に認められた。よって、脳梗塞時、ADAMTS13は脳保護的に作用することが明らかとなり、CD36を介した抗炎症作用がその脳保護機序に関与していることが考えられた。ADAMTS13はt-PAに比べて、脳出血のリスクが低く、治療投与開始時間が長い脳梗塞治療薬となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、 ADAMTS13が脳梗塞に対して虚血前あるいは虚血後投与でも治療効果を示すことを明らかにした。また、ADAMTS13は、劇的な治療効果をもつt-PAに比べて、脳出血のリスクが低いことがわかった。この成果は、ADAMTS13が治療開始可能時間の長い脳梗塞治療薬となることを示唆した。さらに、ADAMTS13は、抗血栓作用のみではなく抗炎症作用を有する可能性を示唆した。これらの本年度の結果は、次年度のADAMTS13を利用した新たな脳梗塞治療法を見出すための基盤となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、 明らかにしたADAMTS13の脳梗塞に対する治療効果の治療可能時間について解析する。ADAMTS13とt-PAの差別化を更に追及するとともにADAMTS13の作用機序を解析する。ADAMTS13の構造中にThrombospondin-1(Tsp-1)が含まれていることが明らかになっている。そこで、Tsp-1の脳保護作用についても検討を行う。さらに、A172細胞を用いてTsp-1の作用が、本年度明らかにしたCD36を介して抗炎症作用を有するか検討し、脳梗塞時のCD36を中心とした炎症反応とADAMTS13の関わりを検出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、ADAMTS13の脳梗塞に対する治療効果の治療可能時間について解析する。本年度得られたADAMTS13が脳梗塞に対して治療効果を示すことを基盤とし、実験を行う。これらの実験は、 研究代表者の所属機関である福岡大学に設置されている現有設備にて、遂行可能であるため、設備備品については特に使用しない、本年度研究経費として、消耗品費600千円を使用する予定である。研究計画のADAMTS13とt-PAの差別化やADAMTS13の作用機序を解析するために必要となる分子生物学研究試薬、細胞実験研究試薬に400千円、実験動物の購入(餌代などを含む)に200千円計上した。また、昨年度予定していた培養細胞における基礎検討の131.800円については、本年度に行うA172細胞におけるADMATS13による炎症作用の関与を明らかにするために使用する。これらの経費により、平成25年度に本件研究を遂行する予定である。この他、研究成果発表費用に旅費、論文の校閲費および印刷費として、200千円を使用する予定である。
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