研究課題/領域番号 |
23590665
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
日高 宏哉 信州大学, 医学部, 准教授 (10362138)
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研究分担者 |
本田 孝行 信州大学, 医学部, 教授 (80238815)
本郷 実 信州大学, 医学部, 教授 (40209317)
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キーワード | リン脂質 / MALDI-TOF MS / 脂質分解酵素 / 肺胞気管支洗浄液 |
研究概要 |
これまで,マトリックス支援イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC MS)を用いて、リン脂質およびその代謝産物、トリグリセライド(TG)、コレステロール、脂肪酸などの定量測定法を確立した。また、リン脂質や他の脂質の分解に関わる酵素の反応性を検討し、MALDI-TOF MSによる酵素活性の測定法を確立した。リン脂質水解酵素であるホスホリパーゼA2は、PCを特異的に水解しリゾPCを生成した。さらに、TGやコレステロールエステル(CE)の水解酵素においては、TGやCEだけでなく弱いながらリン脂質の水解反応を示し、脂質代謝酵素の性質を検討できた。また、スフィンゴ脂質(SL)やホスファチジルコリン(PC)は、有機溶媒下酸性条件で脂肪酸が水解され、副産物を生じないでリゾSLやリゾPCが生成された。また、スフィンゴ脂質の糖鎖にも関係なく水解されたことから、酵素反応とは関係なく比較的緩和な条件でリゾ体が生じることを確認できた。この反応は、定量分析における内部標準物質としてのリゾ体の生成に利用できた。 次いで、気管支肺胞洗浄液(BAL-F)の脂質組成をMALDI-TOF MSおよびGC MSで分析し、肺サーファクタントの構成主要成分であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DMPC)以外にコレステロールなどを同定できた。また、末梢血中の血小板および単核球の調製とマクロファージの分化などの手技を確認し、これらの細胞膜におけるリン脂質組成を分析した。これらのことから、MALDI-TOF MSおよびGC MSにより、BAL-F の脂質代謝産物の定量的分析と分泌される酵素による脂質代謝産物の分析ができ,MALDI-TOF-TOF MSおよびLC MS/MSによる脂質分子種の同定ができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マトリックス支援イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)およびガスクロマトグラフィー質量分析(GC MS)を用いて、リン脂質およびその代謝産物、トリグリセライド(TG)、コレステロール、脂肪酸などの脂質組成分析法が確立され、また各脂質の内部標準物質の調製ができたことから、内部標準物質を用いた微量高感度定量質量分析を可能とした。さらに、本法を利用して、脂質の水解に関わる脂質分解酵素の活性測定の基礎的な検討を行うとともに、基質特異性などの酵素の性質の分析を可能とした。 次いで、マクロファージの前駆細胞の単核球細胞や末梢血血小板などの細胞中の脂質組成の分析が可能となり、気管支肺胞洗浄液(BAL-F)に含まれるマクロファージの脂質組成の分析が可能となった。このことから、これらのBAL-Fや抹消血液細胞が分泌する脂質分解酵素反応をMALDI-TOF MSで分析できる可能性が示された。 さらに、当研究実施施設において、新たにMALDI-TOF-TOF MSおよび液体クロマトグラフィー質量分析(LC MS/MS)が導入され、これらの装置による脂質分子種の同定法の検討をおこない、脂肪酸側鎖の異なる分子種の組成決定の精度をあげることが可能となった。 これらの質量分析装置の分析により、リン脂質およびその代謝産物、関連する脂質水解酵素活性の測定系が確立でき、次年度の目標である患者試料のBAL-Fや血清を用いて、その脂質組成および酵素活性代謝異常の分析に向けて研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
マトリックス支援イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)およびガスクロマトグラフィー質量分析(GC MS)だけでなく、MALDI-TOF-TOF MSおよび液体クロマトグラフィー質量分析(LC MS/MS)を用いて、マクロファージ、その前駆細胞の単核球細胞や末梢血血小板などを脂質水解酵素源として、脂質分解の基質特異性や、その代謝産物の分子種の同定など、脂質代謝機序の詳細な検討を行う。次いで、患者の気管支肺胞洗浄液(BAL-F)の脂質、脂質代謝産物、脂質分解酵素をMALDI-TOF MS、GC MS、MALDI-TOF-TOF MSおよび LC MS/MSで、脂質組成の分析とその脂肪酸側鎖の異なる分子種の同定をおこなう。その結果から、患者のBAL-F中マクロファージによる脂質代謝機能を解析する。これらの患者のBAL-F中の脂質代謝結果と、患者の状態や臨床検査結果等と比較検討し、統合的な解析をおこない、バイオマーカーとなる分子の存在を検索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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