研究課題
【背 景】栄養評価に用いるrapid turnover protein (RTP)の血中濃度は、肝臓での合成に依存する。栄養指標に用いられる総コレステロールは、各リポ蛋白のコレステロールの総和である。しかし、総コレステロールは炎症で低下する。栄養状態には、腸管での食事の吸収も影響する。LDL-コレステロール(LDL-C)は、摂取する食事により血中濃度が変動する。LDL-コレステロール(LDL-C)が、合成と吸収のどちらに影響されるか不明な点が多い。【対象および方法】健常人28例(60.5±6.0歳)と、高コレステロール血症患者44例(63.8±8.6)を対象とした。12時間以上絶食後の空腹時に採血した。血清LDL-Cは直接法で測定した。コレステロール合成マーカーのラソステロールと、コレステロール吸収マーカーのカンペステロールおよびシトステロール測定用の検体は、-80℃で保存した。融解した血清に内部標準物質を添加し、抽出した脂質をトリメチルシリル化してガスクロマトグラフィ/質量分析法で定量した。【結果および考察】ステロールマーカーの回収率は、93~112%と良好だった。コレステロール合成マーカー同士、および吸収マーカー同士は、お互いに有意な正相関を示した。コレステロール吸収マーカーのうち、カンペステロールとシトステロールは、血中のLDL-Cと正の相関を示した(R=0.40, p<0.001; R=0.31, p<0.01)。一方、コレステロール合成マーカーであるラソステロールは、LDL-Cとの間に有意な相関はなかった。LDL-C濃度は、腸管での脂質の吸収を反映するため、炎症による肝臓での合成抑制を受けにくい可能性がある。今後は、低栄養患者で、仮説の検証が必要と考えられた。【結 論】血清LDL-C濃度は、腸管でのコレステロール吸収を反映し、栄養評価の指標になることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
栄養評価に広く用いられているアルブミンについては、海外では、依然として炎症時に正の誤差を生じるBCG法が用いられている。昨年度に検討したBCG法に対する炎症の影響についての論文が、今年度英文誌にアクセプトされた(印刷中)。今年度は、アルブミンとともに栄養評価に用いられる総コレステロールのうち、LDLコレステロールが、腸管からの吸収を肝臓での合成よりよく反映することを明らかにした。従来の栄養評価のマーカーは、主に肝臓での合成をみるものであり、腸管からの吸収という観点から脂質マーカーを利用できることを明らかにした意義は大きい。
今年度までの結果を踏まえ、栄養サポートチーム(NST)に栄養介入を依頼された患者において、以下にあげる3点を明らかにする予定である。(1)LDL-CやVLDL-IDL-LDLに主に分布するアポ蛋白(アポB、アポCII、アポCIII、アポE)が低栄養状態で低下し、栄養状態の改善とともに上昇するのか(2)上記のリポ蛋白の指標が、低栄養患者においてもコレステロールの吸収マーカーによって(合成マーカーではなく)主に規定されるのか(3)上記のマーカーが、炎症によって影響を受けるRTPや総コレステロール、アルブミンと異なる変動をするのか
主にコレステロール合成および吸収マーカー測定用の各試薬の購入と、それに付随して必要となる消耗品の購入に使用を予定している。また、今年度が最終年度なので、データ解析用の統計ソフトの購入と、学会発表のための旅費、論文投稿のための英文校正の費用に使用する。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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