研究課題/領域番号 |
23590691
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
浅井 さとみ 東海大学, 医学部, 講師 (60365989)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | MDRP / 耐性獲得機構 / Mex pump / 迅速診断検査 |
研究概要 |
臨床的な多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa: MDRP)発生のメカニズムを知るために、臨床分離MDRP株19株について、多剤耐性の分子機構に関与する遺伝子変異を調べ、MDRPに特徴的な薬剤耐性遺伝子について検討した。この成果に基づき、遺伝子型の相同性は、Diversi Labo遺伝子解析装置を用い、メタロβラクタマーゼ(MBL)はスクリーニングテスト(栄研化学)にて検出、oprD欠損の有無、mexCD, mexAB, mexEF, mexXYの発現は、PCR法またはRT-PCR法で調べた。耐性遺伝子のプロモーター遺伝子に蛍光タンパク質遺伝子(GFPまたはDsRed)をエレクトロフォレーションにて導入し、各遺伝子発現の有無を可視的に観察するシステムは、判定に2日以上要し、操作が煩雑であることから臨床応用は困難であることがわかった。そこでEnzyme-linked immunosorbent assay(ELISA法)を用いた迅速検査システムを構築することとした。 臨床分離MDRP19株における遺伝子型の相同性から、計9種のパターンが存在した。4菌株にMBLが検出され、oprDの欠損、mexCDはいずれの菌株にも認められなかった。全菌株でmexAB-OprM(自然耐性)とmexEF-OprNの発現がみられ、16株でmexXYが発現していた。そこで、MDRP全株に発現していたmexEF-OprNのOprN蛋白に対し、遺伝子産物の特定部位に相同なペプチドを抗原としてポリクローナル抗体(ウサギ)を作製した。 MDRPに共通する耐性遺伝子として、mexEF-OprNに注目した。mexEF発現の検出とモニタリングは、多剤耐性化の動向の把握および感染制御の指標として有用と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感受性緑膿菌および臨床検体株耐性~多剤耐性緑膿菌(MDRP)で、抗菌薬耐性と耐性遺伝子の発現について、mex遺伝子を中心に、既存の遺伝子発現の状態を臨床分離株を用いて詳細に調査したところ、簡易迅速診断検査に用いるために最も適した耐性遺伝子の有力な候補がみつかった。薬剤排出ポンプ機能の亢進に関与するMexEF-OprNとMexXY-OprM同時発現臨床菌株を用いて、それぞれのプロモーター遺伝子に蛍光タンパク質遺伝子(GFPまたはDsRed)をエレクトロフォレーションにて導入し、各遺伝子発現の有無を可視的に観察するシステムの開発を試みた。しかしながら、 MDRPは、生育が比較的遅くコロニーが小さいため、生育が遅いことが知られており、同様にエレクトロフォレーション後の増菌にも時間を要する。また、エレクトロフォレーションの技術は通常の検査室業務ではできない複雑な手技を必要とし、汎用性がないことが判明した。 簡便かつ迅速なMDRPの診断を目標にすると、当初計画したエレクトロフォレーションを導入する方法は実現性に乏しいため、検出感度が高く操作法が簡易であるEnzyme-linked immunosorbent assay(ELISA法)による耐性遺伝子の発現検出法の開発を新たに試みた。非選択性液体培地を用いて菌の成長を促し、薬剤排出ポンプ機能の亢進に関与するMexEF-OprNに対して、遺伝子産物の特定部位に相同なペプチドを作製、これを抗原としてポリクローナル抗体(ウサギ)を作製した。ポリクローナル抗体は多剤耐性緑膿菌の耐性遺伝子を抗原として認識することが確認された(ウエスタンブロット法)。本方法を用いれば、一般的な検査室レベルでのMDRPの迅速な検出が可能となると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
既存の遺伝子発現の状態を臨床分離株を用いて、抗菌薬耐性と耐性遺伝子の発現についての調査を継続する。臨床検体株の相同性はrep-PCR法を用いたDiversi Labo装置により解析し、相同性の異なる株でも同様に標的の耐性遺伝子が発現するするか確認する。発現する遺伝子の種類や発現量で抗菌薬耐性がどのように変化するか検索する。現在最適と考えているmexEF-oprN以上に検査に適する耐性遺伝子がないか、さらなる検索を行う。 ELISA法による耐性遺伝子の発現検出法の開発を推進する。条件設定として、検出に最適な溶菌または固定法について、無処理、超音波破砕法、ウラリル硫酸ナトリウム、パラホルムアルデヒド、アルコールなどの使用を試みる。ペプチド反応温度、時間などについて検討する。それぞれの溶菌法や条件設定下で、耐性遺伝子発現の検出限界を検討する。条件設定がなされた後、より短時間で検出できるようさらなる工夫を施す。このシステムを用いて、緑膿菌の耐性獲得からMDRP進展への分子機構について、菌体発育環境条件と耐性遺伝子変異の関係から解明する。また、耐性進展メカニズムにおける菌体発育環境条件に基づき、MDRP進展を回避するための手法を検討する。 実際の重症熱傷症例で耐性緑膿菌が出現した際、本システムを用いた耐性進展化のモニタリングが可能か検討する。同時に菌体発育環境の変化による耐性進展化の回避が可能か検討する。さらに、ELISA法以外にさらに迅速かつ簡便な検査法はないか模索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で必要な費用は、消耗品費にて購入する消耗品や試薬は研究遂行において必須の細菌培養、薬剤感受性試験、分子生物学的解析・タンパク発現解析、ペプチド作製等に用いる。RNA抽出試薬、逆転写酵素、DNA合成試薬、PCR・RT-PCRプライマー作成費用や抗菌薬を含む試薬類、ウエスタンブロット法に必要な試薬類、培養に必要な薬品類、液体培地、血液寒天培地、培養フラスコやプレートチップ、チューブ類、ELISA法施行のためのペプチド作製費、蛍光試薬などの消耗品がほとんどを占めており、これらは実験を行う上で必須の物である。試薬各費目が全体の研究経費の90%を超える場合はない。PCR法、ウエスタンブロット法、ELISA法のためのプレートリーダー、シークエンス解析機は、当該施設所有のものを借用する。耐性菌の遺伝子学的相同性をみるためのDiversi Labo装置は、シスメックス社より期間限定で借用する。これらの機器・装置を使用するための試薬キットは、その都度購入する。 設備については、当該研究室または大学施設内の設備を利用するため、設備備品費は発生しない。細菌培養のためのインキュベーターは、院内細菌検査室の物を使用し、PCR法、ウエスタンブロット法、プレートリーダーなどについては現存の機器を用いる。 情報収集と研究成果発表のための学会参加費用として国内旅費を毎年計上した。また、平成24年度以降には、研究成果の発表報告のため外国論文校閲費と印刷費を計上している。
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