研究課題
血液疾患では、血球の形態学的判定がしばしば診断の決め手となる。なかでも骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)の場合は血球形態異常(異形成)が特徴であるが、その分子メカニズムは不明である。本研究はMDS培養細胞実験系と分子生物学的・免疫学的手法によって、血球異形成をもたらす分子機構の一端の解明を目的とするものである。 初年度は細胞株を用いた実験に取り組んだ。細胞形態と機能に影響すると想定される分子の中で、血液細胞における意義がまだ十分に解明されていない分子として中間径フィラメントに着目し、そのうち核膜蛋白ラミンA/C, ラミンBおよびビメンチンの局在と役割を追求することとした。まずラミンA/Cについては、培養細胞株MDS-Lはごく一部の分画のみがラミンA/Cを発現しており、しかもその多くが巨核球系分画であることを見出した。ビメンチンについてはまず成熟白血球分化における変動を解析するために、HL-60細胞株においてshRNA法にてビメンチン遺伝子をノックダウンした変異株を作成して、好中球もしくはマクロファージ様に分化誘導した際の影響を検討する実験を開始した。 最近研究代表者らは、MDS-L細胞株をサリドマイド誘導体レナリドミドで処理することによって細胞質分裂が阻害されること、さらにその際にKIF20A遺伝子発現が低下することを見出したが、KIF20Aと細胞形態の関連についても検討を始めている。またMDSの新薬として普及しつつあるDNAメチル化阻害薬を基礎研究用に入手し、その作用機序をMDS-L細胞を用いて解析中である。
3: やや遅れている
まず細胞株レベルでの研究を展開しているが、クオリティの高いデータを得るためには人為的に遺伝子操作、とくに効果的かつ安定して遺伝子をノックダウンした変異株を複数クローン作成することが必要であるが、これにかなりの時間を要している。一方では正常ヒトCD34陽性細胞を購入して、shRNAレンチウィルス遺伝子導入システムを構築することを併せて試みているが、そのための条件設定にも時間を要している。 マイクロアレイ遺伝子発現解析は外部委託にて遂行しているところである。これについてはむしろデータ解析プログラムの運用が模索段階にあって、まだ進んでいない。外部委託業者とのさらなる協議が必要である。
ビメンチンのノックダウン変異株については、良好な安定変異株が複数クローン確保できつつあるので、現在好中球もしくはマクロファージ様に分化誘導した際の影響を検討する実験を開始しており、有意義なデータが得られる目途がたってきた。shRNAレンチウィルス遺伝子導入システムがほぼ確立し、複数の研究者間で共有できる段取りもできつつあるので、遺伝子ノックダウン実験自体を従来よりはスピーディに展開できる見込みである。
常時細胞培養を行うのでそのための経費は常に必要である。さらにshRNAレンチウィルスシステムに関する消耗物品・試薬、発現蛋白確認のための抗体試薬、ウェスタンブロッティング用物品・試薬、マイクロアレイ・プロテオーム解析外部委託費用・解析プログラム運用経費の執行を予定している。23年度は実験システムの確立に時間を要した反面、研究経費の執行額が予定よりもかなり少額に終わったが、次年度は上述した実験経費が相当額かかる見込みである。
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