研究課題/領域番号 |
23590696
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
通山 薫 川崎医科大学, 医学部, 教授 (80227561)
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キーワード | 遺伝子ノックダウン法 / 血球異形成 / 好中球機能 |
研究概要 |
血液疾患では、血球の形態学的判定がしばしば診断の決め手となる。なかでも骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)の場合は血球形態異常(異形成)が特徴であるが、その分子メカニズムは不明である。本研究は培養細胞実験系と分子生物学的・免疫学的手法によって、血球異形成をもたらす分子機構の一端の解明を目的とするものである。 本研究ではとりわけ血液細胞における意義がまだ十分に解明されていない分子として中間径フィラメントに着目してきたが、なかでも白血球系細胞に高発現している中間径フィラメント・ビメンチンの局在と役割を追求することとした。昨年度に引き続き、ヒト白血病細胞株HL-60を用いてshRNA法にてビメンチン遺伝子をノックダウンした変異株の作成に取り組み、恒常的にビメンチン遺伝子発現が著減した安定変異株を樹立することができた。この変異細胞株をレチノイン酸処理にて好中球へ、もしくはフォルボールエステル処理にてマクロファージ様に分化誘導した際の影響を検討中であるが、今までに得られた基礎的データから、ビメンチン遺伝子をノックダウンした変異株ではケモカイン刺激による細胞遊走能に障害があること、一方貪食能はむしろ亢進しているとの感触を得ている。ビメンチンについてはその機能を阻害する薬物ウィザフェリンAを入手できたので、この阻害剤の効果とビメンチン遺伝子ノックダウン効果との共通点・相違点についても検討を開始したところである。 細胞株を用いた実験と並行して、健常ヒト骨髄造血幹細胞(CD34陽性分画)のビメンチン遺伝子ノックダウンにも取り組み始めたところであり、増殖・分化・成熟への影響を現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト白血病細胞株を用いてshRNA法にてビメンチン遺伝子をノックダウンし、恒常的にビメンチン遺伝子発現が著減した安定変異株を複数株樹立・確保するのに時間を要したが、今後これらの細胞株を活用して有意義な研究結果を蓄積していくことができると思われる。一方健常ヒト骨髄造血幹細胞(CD34陽性分画)のビメンチン遺伝子ノックダウン、およびそれ以後の分化誘導の試みはかなりデリケートな実験系であるため、容易に進行できなかった。最終年度に向けて注力したい領域である。
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今後の研究の推進方策 |
ビメンチンのノックダウン変異株については、良好な安定変異株が複数クローン確保でき、現在好中球もしくはマクロファージ様に分化誘導した際の影響を逐次検討中であるので、有意義なデータが得られる目途がたってきた。shRNAレンチウィルス遺伝子導入システムがほぼ確立し、複数の研究者間で共有できる段取りもできてきた。また大学院生の新規加入もあり、遺伝子ノックダウン実験自体を従来よりはスピーディに展開できる見込みである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(521,765円)が生じたのは、安定変異株を複数株樹立・確保するのに時間を要し、予定された実験ステップにまだ十分進めていないためである。最終年度にはできれば健常ヒト骨髄造血幹細胞を用いた検討を加えて、当初の計画を達成したいと考えている。 そこで今年度からの繰越額を次年度請求額に組み入れて、ヒト骨髄造血幹細胞培養のための経費、shRNAレンチウィルスシステムに関する消耗物品・試薬、発現蛋白確認のための抗体試薬、阻害剤、ウェスタンブロッティング用物品・試薬の購入費用に充てる予定である。
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