研究課題/領域番号 |
23590703
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研究機関 | 静岡県立静岡がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
大島 啓一 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (10399587)
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研究分担者 |
寺島 雅典 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (40197794)
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キーワード | エクソソーム / microRNA / 腫瘍マーカー |
研究概要 |
血中腫瘍マーカーの開発はその簡便性や低浸潤性により、癌の診断学に対して多大な期待を示す。循環血液や尿等の体液中における発見により、microRNAは体液中の腫瘍マーカー・バイオマーカーとなる可能性がある。microRNAが体液中で安定に検出される理由は、細胞から分泌されるエクソソームに封入されることで、酵素からの分解を受けないためと言われる。 エクソソームは培養細胞の上清液にも存在することが知られ、申請者らは培養細胞のセクレトーム解析を基盤手法として上清液中のmicroRNAを網羅的解析した結果、胃癌高転移細胞株AZ-P7aにおいてlet-7 microRNA familyがエクソソームを介して特異的に細胞外に放出することを見出した。さらに細胞内外画分では異なるmicroRNAプロファイリングを認めたことは、組織分析によりマーカー候補となったmicroRNAが必ずしも血清等の体液中で検出されないことを示唆した。 本研究では、こうした知見をもとに、血液中の循環microRNAを分析対象とした新しい腫瘍マーカーの開発を行うことを目的として、平成23年度にスタートした。当該年度(平成24年度)までに、臨床検体におけるlet-7 microRNA familyレベルの検証実験を行うにあたり、約150の血清検体の収集を達成した。let-7 microRNA family のRT-PCR分析については、血清中のエクソソーム単離の有無ならびにその単離方法の検討を開始した。さらに、前年度(平成23年度)に認めたスキルス胃癌特異的エクソソームmicroRNA群については、それら個々の存在レベルの検討を開始した。一方、microRNAに加えて、エクソソームタンパク質にも注目し、プロテオーム解析を行った結果、胃癌細胞株に特異的に存在するエクソソーム内タンパク質を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、①let-7 microRNA familyが胃癌の転移予測マーカーとして臨床応用への可能性の検討、②マーカー候補となる他のmicroRNA探索を主題とし、次の3つの研究を実施することを計画した。各項目に対する進捗状況を以下に述べる。 1)let-7 microRNA familyの臨床検体による検証実験:前年度に胃癌患者に対する血清検体の収集を開始し、約50症例の検体を収集した。当該年度では、当初の目標症例数である100に向けて、さらに検体の収集を行い、目標数を超える約150症例分の血清を収集することができた。これら血清検体を用いたlet-7 microRNA familyレベルのRT-PCR分析は、血清中のエクソソーム単離の有無について、単離方法を含めた検討を行った関係上、次年度に持ち越しとなった。 2)培養細胞上清液を用いた網羅的解析とデータマイニングによる新たなマーカー候補microRNA探索:胃癌細胞株のみならず膵臓、大腸や肺等他の臓器由来細胞株由来のエクソソーム内のmicroRNAプロファイリングとその比較を行い、新たな腫瘍マーカー候補となるmicroRNAを見出す計画である。前年度では、スキルス胃癌細胞株由来のエクソソームに特異的なプロファイリングを示すmicroRNA群を発見した。当該年度では、それら約15個のmicroRNAについて、個々の存在レベルの検討を開始した。一方、microRNAに加えて、エクソソームのプロテオーム解析を行い、胃癌細胞株に特異的に存在するエクソソーム内タンパク質を見いだした。 3)胃癌患者及び健常人血清検体を用いた網羅的解析とデータマイニングによる新たなマーカー候補microRNA探索:臨床検体を用いた網羅的解析による探索であるが、上記2)の計画に時間を費やしたため、本計画は未着手であった。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間で、臨床検体での検証を目的としたlet-7 microRNA familyに関する当該研究を行う上で必須である血清検体について、目標症例数である100検体以上の収集を達成した。次年度(最終年度)では、これら臨床検体を用いて以下に示す3つの目標に向かう。 今後の本研究の第一目標は、let-7 microRNA familyの臨床検体での検証である。すなわち、胃癌患者の血清中またはそのエクソソーム画分中におけるlet-7 microRNA familyの存在レベルを分析する。その後、臨床データとの突合、ならびに健常人における存在量と比較検討し、let-7 microRNA familyの転移予測マーカーとしての有用性を検証する。 第二の目標は、マイクロアレイでスキルス胃癌細胞株由来のエクソソーム中で特異的な存在プロファイリングを示したmicroRNAレベルと患者血清中での検証である。すなわち、非スキルス胃癌をはじめ他の臓器由来の細胞株と比較して、スキルス胃癌特異的microRNA群について、RT-PCRによるマイクロアレイデータの検証を行う。その後、患者血清を用いた有効性の検証を行う。さらに、複数からなる候補microRNA群に対して絞り込み、すなわち限定化が可能かどうかを検討する。 第三の目標は、プロテオーム解析により得られた胃癌細胞株に特異的なエクソソームタンパク質について、培養細胞ならびに臨床検体を用いて詳細な検討を行うことである。具体的には、血清中でのタンパク質の存在様式、すなわち分子形の検討や、検出・測定方法の検討である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(平成25年度、最終年度)では、前年度に引き続き、臨床検体や培養細胞株を用いたmicroRNAならびにタンパク質の検証を行うため、リアルタイムRT-PCRによるmicroRNA分析用試薬ならびに抗体等のタンパク質分析用試薬が経費の中心となる。その他、採血管、エクソソーム抽出用超遠心チューブ、およびRNA抽出試薬等の臨床検体の収集ならびに試料調製に関連する消耗品を申請する。 また、学会誌への論文投稿用費用として、論文校閲費、論文掲載費および論文別刷費を申請する。加えて、国内学会における発表に対する出張費を申請する。
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